見た目は重要である。日本のITの世界は、見た目を軽視しているのではないだろうか。見た目といっても、人の外見ではなく、モノやサービスに関してである。意匠としてのデザインだと考えてもらってもいい。今回は、この話題について書いていく。

 本題に入る前に、一つクイズを出題したい。ホープとピースというどちらも昔からあるたばこがあるが、箱に書いてあるHOPEとPeaceの文字のどちらが優れているか、である。

 どれだけものの見た目、つまり外見やデザインについて普段、意識しているかを確認するのが、このクイズの狙いである。解答は記事の末尾に記した。

形態は機能に従う

 「形態は機能に従う」という、米国の建築家であるルイス・サリヴァンの有名な言葉がある。何に使うものか、どう使うものかを徹底して考えるなかで、モノの形は決まってくる。

 デザインは機能を制約するものではない。見た目で使いづらいということは、機能を十分に考えてないからではないかと思う。

 具体例を一つ挙げたい。ノートパソコンを使っているとき、筆者は常にデザインについて考えさせられる。確かに持ち運びやすいパソコンはありがたい。だが果たして、正確に文字を入力しやすいだろうか。サブノートといわれるパソコンの多くに不満を覚える人もいるはずだ。

 ほとんどのノートパソコンは、視線と文字を入力する手の中心がずれるのも筆者は気になる。視線に比べて両手の中心がどうしても少し左に寄ってしまうのだ。自由にキーボードを動かせるデスクトップパソコンで、ディスプレイとキーボードの中心を一致させたときに比べて、確実に入力の効率が落ちる。

 パソコンだけではない。取材していると、使いづらそうなハードやソフト、システムを見かけることがある。文字の大きさやボタンの配置、あるいは機器全体の形やバランスが悪いからだ。複数回の操作が必要な機器の場合は、ある操作から次の操作にスムーズに移れないこともある。

 使いやすくするには外見を変えるのが一番だ。ITの世界にかかわる人から、ユーザビリティー、つまり使い勝手や操作性が重要だという話もよく聞く。であれば、見た目がどうあるべきかをもっと重視すべきだろう。

独自のデザイン哲学を貫くアップル

 デザインの重視はビジネスにもプラスに働く。ITの世界にはデザインを重視して、大きな成果を出している企業が存在する。米アップルがそうだ。

 同社はデザインについて独自の哲学を貫く企業としても知られる。アップルの製品は、一目見ただけで他社製品と違うと感じる読者もいるだろう。

 独自のデザインで大成功した最新の例が、スマートフォンのiPhoneである。アップルがiPhoneを発表したのは2007年1月のことだ。今でこそごく当然のように使っているが当時、ボタンも入力専用のペンもなく、画面を指でなぞるだけですべての操作が完了する電話はどこにもなかった。

 指だけですべてが操作できる独自のインタフェースは、他社製品と外見上の差を付けるために生まれたものではない。スマートフォンの大きさで最も効率的な情報の入力のあり方、入力という機能を突き詰めて考えた結果である(関連記事「『電話を再発明する』---Jobs氏がMac OS X搭載の携帯電話機を発表」)。

 iPhoneが正式に発表される前から、アップルがスマートフォンを開発しているといううわさはあった。いくつもの製品の予想図をネット上で見たが、現物のiPhoneほど革新的なものはなかった。スマートフォンが果たすべき機能を追求した結果、革新的な姿につながったことに意味がある。

 米グーグルもデザインに対する関心の高い企業だ。最近も同社の姿勢を示す出来事があった。

 英語のグーグルのWebサイトはしばらく前から、Googleのロゴのほか、調べたい言葉を入力する検索窓と二つのボタンだけのシンプルなデザインに変わったのである。検索という目的のためにGoogleのWebサイトにやってきたとき、できるだけ早く簡単に目的を果たせるためにどうすべきかを考えた結果、このデザインにたどり着いたのだという。

 画面上でマウスを動かすと、画像や地図、ニュース検索のほか、各種のアプリケーション、グーグルへの広告掲載についてのリンクが、画面上に現れる。グーグルが提供しているのは検索のサービスだけではない。こういった目的でWebサイトを訪れた人の期待に応えることも考えているわけだ。