電子自治体の象徴でもある電子申請サービス。その非効率性に対する風当たりが以前にも増して強くなっている。

 朝日新聞は2009年11月30日に「電子申請、19府県で休止・縮小 財政難が背景に」と報じた(Web版の記事はこちら)。47都道府県の利用状況を調べたところ、財政難を背景に19府県が手続きの全面休止や縮小を実施もしくは予定していたという。

 同紙は11月3日付の「国の電子申請、利用率10%未満が3割 運用コスト高」という記事でも(Web版の記事はこちら)、運用コストが膨大なため、電子申請そのものの廃止を含めた見直しが必要であると報じている。

 電子申請の普及率が低い点については、国もかねてから認識している。2008年9月には、IT戦略本部が「オンライン利用行動計画」を策定・公表している(参考資料はこちら)。

電子化を基本として業務を再構築する

 これに関連した提言を、リサーチネットワーク 代表取締役研究員/東アジア国際ビジネス支援センター 事務局長を務める安達和夫氏に寄稿していただいた(「電子申請は本当にコスト高をもたらすのか?」)。この中で、安達氏は次のように提言している。

  • 現在の電子申請のほとんどは、フロント部分(申請受付)のみのオンライン化である
  • 内部処理は窓口申請とほぼ同様の方式で処理している
  • これを改め、電子申請を前提として、内部処理を最適化すべき
  • 窓口申請は、内部の上流工程で文書を電子化することによって処理を一元化する必要がある

 こうした体制を作ることで、行政サービスのワンストップサービス化という住民側の利便性向上、およびワークフロー管理の導入などによる行政側における省力化といったメリットも生まれてくる。安達氏はこう指摘している。

 このような取り組みを進めるには、業務の根本的な改革が欠かせない。実現は容易ではないだろう。しかし筆者はこの数年で、これに取り組む絶好の機会が到来するのではないかと考えている。キーワードは「自治体クラウド」だ。

電子申請の標準化を進める好機に

 自治体クラウドは、自治体専用のWANである総合行政ネットワーク(LGWAN)内にあるデータセンターに市町村のアプリケーションを統合・集約する取り組みである(詳しくはこちら)。市町村レベルでのシェアド・サービス化ととらえることができる。

 複数の市町村が同じアプリケーションを利用するとなると当然、業務の標準化が必要になる。自治体の規模によって業務内容が異なるサービスに比べると、電子申請のアプリケーションは共有化しやすいといえる。実際、電子申請サービスの内容は、どの市町村でも大きな違いはない。

 現在の電子申請サービスは、自治体ごとにシステムを導入したため、仕様がバラバラになっている。業務そのものは、現状の仕組みで回っているため、なんらかのきっかけがないと、改革しようという機運は高まらないのではないか。

 現在、総務省の実証事業への参加団体をはじめ、先進的な自治体が自治体クラウドに取り組み始めたところだ。ここで成功事例が出てくれば、市町村でアプリケーションを共用化する動きは、この数年で大きなうねりとなるだろう。

 総務省の「自治体クラウド実証事業」の要件の中には、アプリケーション間でデータを連携するための「自治体クラウド連携インターフェイス」というものもある。これを利用すれば、ワンストップサービス化の実現も可能である。

 過去にも総務省主導で、自治体システム共同化の動きはあったが成功したとは言いがたい。しかし、今回は自治体主導でクラウドに取り組み始めている点が異なる。「自治体クラウド」という名称が残るかどうかはともかく、Webや仮想化の技術を利用してアプリケーションを共用化する動きが加速するのは間違いない。その際に、共用化の対象に含めることで、電子申請の改革を推進するのは十分可能であると筆者は考えている。