Ubuntuは,WindowsやMac OSに次ぐ第3のデスクトップPC向けOSの選択肢と呼ばれていた。大手PCメーカーの米Dell社が販売するデスクトップPCのプレインストールOSにも採用され,ニューヨーク・タイムズなどの一般紙がオンライン記事でUbuntuを取り上げた。

 筆者自身,2008年4月にリリースされた「Ubuntu 8.04 LTS」を使ったときにはそう感じた。ハードウエアのドライバを組み込まなくても多くの周辺機器が動作するし,さまざまなアプリケーションが簡単にインストールできる。ほとんどの操作がGUIから可能で,明らかに他のディストリビューションよりも便利であるというのが,その理由だ。

 しかし,最近リリースされたUbuntu 9.04やUbuntu 9.10を使ってみたところ,そのような考えはなくなりつつある。使い勝手は,FedoraやDebian GNU/Linuxなどのディストリビューションとほとんど変わらないという印象だ。後述する長期サポート版である「LTS」が付かないバージョンであるために開発優先になっているのかもしれないが,“Ubuntuのイメージ”が損なわれる心配が出てきそうだ。

新機能を取り込みすぎている

 Ubuntuの開発目標は「一般的なコンピュータ利用者にとって便利なOSを作ること」である。そのために「使いやすさ」を重視して開発が進められているはずである。ところが,2010年1月号で特集を執筆するためにUbuntu 9.10 Desktop 日本語 Remix CD(以下,Ubuntu 9.10)を試したところ,使いやすさを感じられる部分があまりないことが気になった。

 例えば,今回試したハードウエアではインストーラ画面やデスクトップ画面が表示されない。「セイフグラフィックスモードでUbuntuを起動」を選択すれば表示するが,セイフグラフィックスモードでは本来のグラフィックス性能が発揮できない。

 旧版のUbuntu 8.04 LTS 日本語ローカライズド Desktop CD(以下,Ubuntu 8.04)では問題なくデスクトップ画面が表示され,デスクトップに特殊な効果を与える3次元デスクトップも使えていたのである。Ubuntu 9.04 Desktop 日本語 Remix CD(以下,Ubuntu 9.04)では,問題があってもどうにか画面は表示した。進化しているはずなのに,見た目には後退しているようにしか感じられない。

 日本語入力環境もそうである。Ubuntu 9.10では「iBUS」という多言語入力システム(ソフト)を採用している。一方,Ubuntu 8.04や9.04では「SCIM」というソフトが採用されていた。SCIMに比べると,iBUSは使い勝手が悪い。SCIM同様,iBUSもWindowsでよく利用される「ATOK」などの同じキー割り当て(キーバインド)にできる設定が用意されているが,iBUSではファンクション・キーなどの割り当てがおかしい。また,iBUSには手書き入力機能が実装されていない。

 このほか,初期化処理が刷新されている。従来,ランレベルというシステムの動作状態を表す数値によって/etc/rc0.d~/etc/rc6.d内のスクリプト(実態はスクリプトのシンボリック・リンク)を実行して初期化を行っていた。Ubuntu 9.10では,/etc/initディレクトリ以下の設定ファイルの内容によって,イベント単位で初期化処理が実行されるように変更されている。Ubuntuなら,そのように変更されたらGUIツールが用意されてもおかしくない。しかし,それはなさそうである。

 便利なOSを追求するというより,新機能を先取りすることにこだわっているように見えるのである。これでは,FedoraやopenSUSEと変わらないのではないか。

LTS版の情報をもっと発信してほしい

 Ubuntu 8.04も久しぶりに使ってみたが,今でも使いやすさは感じられる。Ubuntu 8.04は「LTS」という名前が付属するバージョンである。LTSはLong Term Supportの略で,デスクトップPC向けは3年,サーバー向けは5年と長期間のサポートが受けられる。2年に1回リリースされる企業用途が中心のバージョンである。新しいハードウエアの互換性が確保され,しっかりしたテストが行われている。

 LTSが本来のUbuntuであるならば,情報をもっと発信してほしい。Webサイトを見る限り,Ubuntu 9.10の情報ばかりが目に付く。Ubuntuが「一般的なコンピュータ利用者にとって便利なOSを作ること」を狙っているなら,そちらにも目を向けさせることをコミュニティ・チームは考えた方がよいのではないか。