司馬遼太郎氏の小説『坂の上の雲』が、NHKによるドラマ化などで話題になっている。同作は、鎖国後の日本が邁進した欧米的な近代国家の姿を、そこさえ上り詰めれば手が届きそうな「坂の上にたなびく一筋の雲」にたとえる。

 一方、現代のIT業界は語呂合わせではないが、「クラウド(雲)」の実現に邁進する。その目指すところには“一筋の雲”しかたなびいていないのだろうか。

クラウドはIT業界における“維新”か

 『坂の上の雲』が描く明治の日本は、封建社会から解き放たれ、見るもの聞くもののすべてに驚き、近代化という目標に立ち向かおうとするエネルギーがみなぎっていたようだ。明治維新の言葉通り、これまでの常識を打ち破り、すべてを新しくしようという意気込みだったのだろう。

 今のクラウドコンピューティングを巡るITベンダーの攻防や利用企業の興味と期待は、明治の日本と同様、まさに“維新”でも起こそうかと言うほどに熱を帯びている。所有から利用へといったサービス化の時代背景があるとはいえ、これまでのIT業界の構造やITの利用状況に対する不満が爆発したかのようでもある。

 黒船は米グーグルだ。検索サービスを足がかりに、アプリケーション実行環境としてのクラウドに進出。PCや携帯電話用のクライアント用OSまでも打ち出している(関連記事:『グーグルが描くテクノロジーの未来』)。結果、クラウド市場での戦いは、「マイクロソフト vs グーグル」の構図で語られることが多い。Windowsをグーグルが一蹴するかどうかが焦点である。

 しかし、リサーチ会社である米ガートナーのデイビット・スミス バイスプレジデント兼ガートナーフェローは、マイクロソフト vs グーグルの構図を「非対称な戦い」だと評する。つまり、利用者層やそこに届けようとしている価値、収益源、戦術といった比較項目において、いずれも正対してはいないというわけだ(関連記事:『[指南役の提言]クラウドでも”囲い込み”のリスクはつきまとう』)。

 クラウドコンピューティングの実現に向け、坂を登っているのはマイクロソフトとグーグルだけではない。表現方法や発表・未発表の違いはあっても、ITベンダーはほぼ例外なくクラウド上での優位なポジションを狙っているはずである。

 しかも、そのクラウドは必ずしも一つとは限らない。雲によっては信頼性やサービス内容が異なる。パブリックな雲とプライベートな雲という違いもある。積乱雲のように拡大する雲もあれば、落雷を落とすような怪しい雲も登場するかもしれない。

クラウドはようやく姿を見せ始めた段階

 経済合理性を考えると、クラウドは“一筋の雲”に収れんするとの見方もある。だが、複数の雲が浮かんでいても不自然ではないはずだ。

 コンピュータのハードウエアやソフトウエア、さらにアプリケーションなどが決して1種類に収れんしてしまわないことからも、それは想像に難くない。競争原理が当然働くだろうし、「どうしてもこっちが好き」といった“感情”の領域まで経済はコントロールできない。

 クラウドは、その考え方は従来からあったとしても、今、我々の前に姿を見せ始めたばかりの段階だ。これからどんな雲になっていくのか、どんな雲が出てくるのか、さらには雲の内側で起こっているテクノロジー競争はどうなっているのか。興味の対象は尽きないし、それは地上から見上げるだけでは分かりようがない。

 そんなクラウドに少しでも近づくために、明日2009年12月8日から12月15日にかけて、日経BP社は「クラウド・フェスタ」と題するバーチャル展示会を開催する。クラウドの内側や、マイクロソフトやグーグルの戦略、クラウドの実装技術、クラウド端末を狙う「Android」などについて、記者やアナリストによる講演の無料配信を含めた最新情報を公開していく。

 12月10日は「イベントDay!」として、筆者を含む日経BPの記者などが複数人、各ブースに待機する。チャットなどを通じて、皆さんのクラウドに対するご意見をぜひお聞かせいただきたい。同日限りの特別講演も配信する予定だ。

 お手数ながら事前登録が必要なので、こちらから登録いただき、クラウド・フェスタにお出かけください。クラウドに近づく坂を、少しでも一緒に登ってみましょう。オンラインでお会いできることを楽しみにしています。