この前に書いた国策スパコンの件、もう一度コメントしておきたい。事実上の「凍結」と判定された国策スパコンだが、先週末に揺り戻しがあり、プロジェクト継続のほうに再び大きく振れた。「科学技術立国の基盤が危うくなる」との批判の嵐に、事業仕分けの判定が吹き飛ばされた格好だが、本当にそうか。私は現行計画のままなら、やはり国策スパコンなど要らないと思う。

 報道によると、先週末に菅直人副総理・国家戦略相ら政府首脳や民主党幹部から判定の見直しを示唆する発言をしたのだという。研究者らからの猛反発を受けて、事業仕分けチームの結論をオーバーライトしたようだ。これから先、行政刷新会議による仕分け結果の適否の判断、さらに予算を巡る閣僚折衝という2段階のプロセスが残されているので、国策スパコンの予算が復活する可能性が高くなってきた。

 しかし、この国策スパコン「京速計算機」を作る目的は、いったい何なのだろうか。巨額の税金を投じて作る以上、明確な目的がひも付いていなければならない。つまり、「こんな研究のために、毎秒1京回の浮動小数点数演算を行うスパコンが必要だ」と明確に言ってもらう必要がある。

 例えば、米国が国策スパコンを作る目的は「軍事」と明快だ。日本の国策スパコンでも、これまでは一応明確な目的があった。前世代の地球シミュレータの場合、地球規模の環境変動の解明・予測、つまり地球規模でのシミュレーションができるマシンを作ることが目的だった。

 では、京速計算機の場合はどうか。いろいろ話を聞いても、「世界最高速のマシンを作る」ということぐらいしか見えてこない。「最先端のスパコンを開発・製造・運用できる技術やノウハウの蓄積は重要」という議論もあるが、コンピュータは道具である。利用目的がはっきりしないのに、開発費だけでなく運用費もバカ高く、電気を鯨飲するモンスターを税金で作るのは、やはりいかがかと思う。

 しかも、この国策スパコンのプロジェクトは、日本のITベンダーにも益がない。総額1230億円の巨費を投じるのに、ITベンダーも持ち出しである。実際、NECはこのコスト負担に耐えられず、プロジェクトから撤退している。残った富士通はスカラー型のマシンを開発するので、NECほど悲惨ではないだろうけど、富士通のハードウエア・ビジネスにどれほどプラスになるのだろうか。

 そう言えば、今も現役の地球シミュレータの全演算能力をフル活用するケースって、いったい何件あるのだろうか。今では産業界にも開放されているらしいが、多くの案件は地球シミュレータの能力の一部を活用すれば済むと聞く。そうであるならば、性能の劣る商用スパコンを利用すれば十分ということになる。

 だったら、いっそのこと商用スパコンを導入し、広く研究・開発に利用できる巨大なスーパーコンピュータセンターを作ったらどうか。利用目的がはっきりしないモンスターに巨費を注ぎ込むより、そのほうがはるかに日本の研究・開発の底上げに資するし、スパコン事業の維持に苦吟する日本のITベンダーのためにもなる。それとも、予算をそっくり他の科学技術分野に回すか。それも、ありだろう。