クラウド・コンピューティングに向けて、日本のIT業界が一斉に動き始めている。だが、よくよく見ると、その走りといえる仮想化技術を活用したサーバー統合はなかなか進展していない。米アマゾン・ドット・コムなどが提供する仮想サーバーを利用する企業も決して多くない。クラウドの普及を阻む原因はどこにあるのだろう。

 仮想化技術に関するコンサルティングを手掛けるヴイエムネットの津村英樹社長は、いくつかの問題点を指摘する。一つ目は、大手ITベンダーや大手ソフト会社が仮想化サービスによる収益減を懸念していることだ。大手ITベンダーはサーバー統合によるサーバー製品の販売減を恐れ、システム構築で収益を得ている大手ソフト会社は、仮想化サービスによる収益モデルを描けないことに不安を抱いている。表面上は仮想化技術に積極的に取り組んでいるかのように見えても、実際には躊躇しているというのだ。

 二つ目は、そもそも仮想化技術者の数が足りないという問題だ。三つ目は、ユーザー企業がITベンダーや大手ソフト会社にシステムの構築・運用を依存する今の状況にあって、サーバー統合といった仮想化によりコストメリットを享受する絵を自ら描けないことにあるという。

仮想化サービスのフランチャイズを

 情報処理サービス中堅のアイネットは、ヴイエムネットと協業して仮想サーバーの設計・構築、運用管理、さらにはプライベート・クラウドを提供する仮想化サービスに乗り出した。同社は長くアウトソーシング事業を手がけ、仮想化サービスに欠かせない運用管理の技術やノウハウを蓄積してきた。また、独立系企業である点も有利に働くと考え、1年をかけて仮想化関連技術者の育成に力を注いできた。

 さらに、2009年6月に竣工した横浜の第2データセンターに、運用管理の拠点となる仮想化オペレーションセンターをこの設置し、10月に稼働させた。仮想化サービスを各地のデータセンター事業者やユーザー企業に売り込む考えである。

 アイネットの田口勉常務は「仮想化技術にチャレンジしたいデータセンター事業者、ソフト会社は少なくない」とし、仮想化サービスを利用したフランチャイズ構想を練る。当初は、多くの仮想化技術者を抱えられない各地のデータセンター事業者に対し、仮想サーバーの構築から運用までを代行するサービスを提供する。また、中小ソフト会社などに仮想サーバーを開発環境として提供する。

 次の段階はディザスタリカバリである。センターを1カ所しか持たないデータセンター事業者が、仮想化技術を利用することで、遠隔地のデータセンター事業者の資源を利用できるようにする。空いている他社の資源を有効活用できれば、設備投資を抑えられる。

 第3段階は仮想化サービスを利用する複数のデータセンター事業者を結び、サーバーを始めとするリソースの最適配置、つまり資源の貸し借りを自動化する。言わば、バーチャル・カンパニーのような状態である。現在、数社のデータセンター事業者と実証実験を開始しているという。

既存のビジネスを捨てられるか

 問題は、各地のデータセンター事業者や中小ソフト会社が自ら市場を開拓する強い意志を持てるかどうかだろう。IT投資の削減を求めるユーザーに対し、サーバー統合など仮想化によるコスト削減を提案すれば、システムの構築・運用という既存ビジネスを展開する既得権益者、つまり大手ITベンダーや大手ソフト会社と真っ向から勝負することになるからだ。

 各地のデータセンター事業者やソフト会社が仮想化技術の発展をビジネス・チャンスととらえ、ユーザーの視点に立ったIT活用を実現する効果的な商材として取り組めば、新たな道を開けるだろう。ITサービス産業の多重下請け構造に変革をもたらすことになるかもしれない。