仕事をする上で,誰もが他人を何らかの形で評価する。同時に,誰もが他人から何らかの形で評価される。人は「自分が行う他人に対する評価」と「他人が行う自分に対する評価」という2種類の評価の中で,仕事をしていることになる。

 筆者は「企業の課長」「教育コンサルタント」という2つの立場で活動している。企業の課長としては,部下を評価する立場にある。人事考課上は,部下以外を正式に評価する権限は持たない。

 だからといって,筆者が評価しているのは自分の部下に限らない。自分と一緒に仕事をする上司や同僚,他部門の人間,さらに社外の人たちについても「能力があるか」「仕事の意欲は高いか」「信用できるか」などと評価している。

 自分が責任を持つ仕事を確実に成功させるためには,こうした評価を考えて仕事を進める必要がある。筆者に限らず,誰もが仕事をしていく上で,一緒に仕事をする人を必ず評価しているはずだ。当然,同じ理由で自分は他人から評価されることになる。

社内の評価基準と社外の評価基準は一致するか?

 筆者は,他人を評価したり,他人から評価されたりしながら,20年間仕事を続けてきた。その結果,企業の中でどのような行動をとれば「好ましい評価」が得られ,逆に何をすると「ダメ評価」につながるのか,という評価基準が分かるようになった。

 こう言うと,「評価基準が分かったといっても,それは特定の企業でしか通用しないのではないか」と反論されるかもしれない。確かに,企業によって文化は異なる。創業者の考え方などが,その会社の評価の物差しとなるケースも少なくない。

 それでも筆者は,企業内での評価は企業によらず「ほぼ一致している」と考えている。多くの企業の管理職クラスと評価に関して意見交換をした結果,この点について確信を得た。

 他人を評価する,あるいは他人から評価される場合に使う評価基準は2種類ある。ここまで説明してきたのは,企業内での評価に関する基準だ。このほかにもう一つ,「広く社会一般で通用するかどうか」という観点での評価基準がある。筆者のもう一つの立場である教育コンサルタント,あるいはコラムニスト,ビジネスプランナーとしての評価は,後者の基準に基づく。

 この社外での評価基準についても,筆者は「広く社会で通用する人」と「通用しない人」の違いが分かるようになった。社外の会社員や経営者,ベンチャーで起業しようとする数多くの人を評価する機会が多かったからである。

 社内の評価基準と社外の評価基準は,一致しているのか。それとも一致していないのか。読者の皆さんはどう思うだろうか。少し考えてみてほしい。

 経験に基づく筆者の見方はこうだ。「一致する部分が多い。だが,一致しない部分もある」。

社内政治にたけた人が社外で通用するとは限らない

 まず,社内と社外で評価基準が一致しているケースを見てみよう。「主張が明確で,主張と根拠が論理的に関係づけられている」人は社内であれ社外であれ,高く評価される。

 主張が明確で,主張と根拠が論理的に関係づけられている人は,周囲から「強い」「しっかりしている」「統率力がありそう」「よい仕事をしてくれる」といった評価を受ける。実際,タスクを明確にして仕事に臨むので,仕事がはかどりやすい。他の協力者を引き込む力もあるので,より仕事が効果的に進む可能性が高くなる。こうした人材は,社内でも社外でも高い評価を得る。

 その逆を考えてみよう。「主張があいまいで,主張と根拠が論理的に関係づけられておらず,論理にムダやダブりが多い」人は,どのように評価されるだろうか。言うことは非常に分かりにくく,すっきりしない。「よい仕事をしてくれそうだ」という印象も与えにくい。社内であれ,社外であれ,このような人が高い評価を得るのは困難である。

 では,社内と社外で一致しない評価基準とはどのようなものか。「社内政治や社内力学に強い」というのは,その一例だ。

 いま,ある企業で部長と部下が同じ趣味を持ち,部下がその趣味について,部長にアドバイスできるだけの知識や技能があったとしよう。その場合に,部長がその部下を高く評価するケースがある。

 仕事の能力以外で人を評価することに,本来は意味がない。ただ,上司が部下を評価する際に「彼・彼女は付き合いやすいか」「一緒に働きやすいか」といった項目を反映させるケースは,どの企業でも珍しくない。これらは「彼はよく気がつく」「彼女はよく気が回る」のような抽象的な評価項目として使われる。

 誤解しないでほしいのだが,筆者はこうした能力が不要だというつもりは全くない。むしろ,会社員として高く評価されるには欠かせない能力であり,不足しているのであればその能力の習得に励むことも必要だと考えている。

 一方で,ここで挙げた能力は,社外でそのまま通用するとは限らない点を理解しておかなければならない。しかも,たとえ社内でいま通用したとしても,それが続くとは限らない。その人が異動したり,会社が買収されたりすると役に立たなくなる可能性が高いということを強調しておきたい。

 以前の連載で説明したが,どうせ習得するのであれば,筆者は「どの会社でも通用する」「社外でも通用する」能力のほうがよいと考えている。そのためには,誰からも「よい仕事をする」と評価されるための評価基準を理解し,「この人はダメだ」と言われないようにスキルアップを図る必要がある。