「国内のモバイル業界は,空洞化が進んでいる」。最近の取材で,あるモバイル関係者がこんな話をしてくれた。国内メーカーが国内の開発・生産拠点を縮小し,国外に移す動きが加速しているのだという。事業を維持するための方策とはいえ,国内の雇用が大きく減るのは大問題だ。

 モバイル分野に限らず多くの企業は,優秀な人材と安価な労働力を求めて世界規模で開発・生産の分業を進めている。国内メーカーに「開発・生産の“自給率”を上げて,国内での雇用を守ろう」という意識があったのかは分からないが,外部からは国内での開発や生産にこだわりすぎたように見える。その結果,雇用を守れなかったのだとしたら,何と皮肉な話だろう。

 それと呼応するかのように,この半月の間に,日本のIT業界の存在感がますます小さくなっているのではないかと心配になるニュースが飛び込んできた。一つは,携帯電話メーカー最大手ノキアの日本国内R&D事業の縮小。もう一つが,ある外資系リサーチ会社の日本事務所の実質的な清算だ。国際市場から見た日本は,新しいことを生み出せる場所,興味の対象ではなくなってしまったのだろうか。「国際競争力の強化」をテーマにこの夏に取り組んだ特集「脱・ガラパゴスの処方箋」以来,日本企業や日本市場で培ったノウハウが国際市場で存在感を示せていないことが気にかかっていたが,これに追い討ちをかけるような出来事である。

 この流れを何とかして変える必要がある。そんな想いで活動しているという,政府の「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」(ICTタスクフォース)には大いに期待したいし,ほかの誰かに頼るだけでなく,自分としても何か貢献できることを考えている。

 私がこの10年ほど見ているモバイル分野で,この悪い流れを断ち切る足掛かりの一つと考えているのが,米グーグルの主導で開発されたソフト基盤「Android」だ。携帯機器を動かすのに必要なソフトウエアがパッケージ化され,しかも無償で手に入るのはもちろん魅力的だが,メーカーやアプリケーション開発者が国境を越えてビジネスを広げられるチャンスでもある。Androidを利用して,モバイル環境からでもインターネットを使えるようにする動きが世界中で進んでいるからだ。

 ただ,端末の完成度やサービス開発において,Androidはたびたび比較される米アップルの「iPhone」に大きく水を開けられていた。Android端末が爆発的に売れているという話は今のところないし,個人のアプリ開発者の中に「iPhone長者」が登場している一方で「Android長者」はまだ聞かない。

 しかし,Androidの構想が明らかになって2年が経過,ここに来て流れが変わりつつある。まず端末の種類が増え始めている。通信事業者ではNTTドコモやソフトバンクモバイル,端末メーカーではシャープ,ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズが国内市場への投入を明らかにした。2010年には,国内外で数多くの機種が登場するだろう。

 弊社としては,ここが転機と考え,ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズの特別協賛を得て,Android向けアプリのコンテスト「Android Application Award(A3,エーキューブ)2010 Spring」を企画した。同時に,Android関連の情報を提供するITproの特設サイトをリニューアルし,アプリ開発者向けの色を濃くした「Android Developers' Inn」を本日立ち上げた。そして,12月8日から始まる弊社のバーチャル展示会「クラウド・フェスタ」にも,日本Androidの会と共に出展,Androidに関する情報を提供することにした。

 多くの関係者の方々が一連のイベントにご参加いただき,これを足掛かりに世界規模で進むモバイル革命の大波に乗ってほしいと期待している。