写真1●10月28日に明治記念館で行った「間違いだらけのネットワーク作り600回突破記念パーティ」での記念写真
写真1●10月28日に明治記念館で行った「間違いだらけのネットワーク作り600回突破記念パーティ」での記念写真
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 10月28日,明治記念館で「間違いだらけのネットワーク作り600回突破記念パーティ」を行った(写真1)。このコラムと同じ題名のコラムを,1997年9月から毎週土曜日に情報化研究会HPに連載している。それが600週,つまり12年を超えたのだ。

 20人あまりが参加したパーティで嬉しかったことは,半数以上が30代の若い人だったことだ。情報化研究会は1984年に筆者を含む4人のメンバーで始めた。創立時のメンバーは50代に突入したので,会員の平均年齢も高くなっただろうと思っていたのだが,予想以上に若かった。ちなみに,会員は全国に約1200人いる。

 パーティでは超ガラパゴス研究会委員でもある,バークレイキャピタル証券アナリストの津坂徹郎さんに「超ガラパゴス研究会からの提言」と題して講演してもらった。津坂さんも30代の会員の一人で,7年前に入会した。若くして通信分野の有名アナリストになったのは立派というほかない。

 さて,今回は「想定外の目的」が革新につながるということと,どうすればそれを発見出来るか,について述べたい。

稲田さんのエピソード

 9月初旬,情報化研究会の創立メンバーの一人で総務省近畿総合通信局長の稲田修一さんからメールが来た。理工系専門誌に掲載する原稿を書いたので査読してほしいと言う。査読を頼まれたのは20数年の付き合いで初めてだったので,驚くと同時に嬉しかった。

 だが,稲田さんは文章も講演も達人で,原稿はあまた書いている。しかも,現場主義で地面に張り付いて仕事をしている筆者と,空の上から高い視点で仕事をしている稲田さんとでは発想もふだん書いていることの質も違う。果たして意味のある査読が出来るだろうか,と思った。ICTが社会変革を起こす段階に来た,という趣旨の論文は案の定,修正を指摘すべき点などなかった。修正ではなく2,3の提案をした。その一つが,最後のセクションにエピソードを入れることだ。そこには若い人へのメッセージが書かれている。ここに稲田さん自身の経験を書くことで説得力が増すだけでなく,読者が稲田さんに親近感を持ち,書かれていることがより印象に残る。稲田さんによればICTの利活用が広がる中,これからの若者には情報利活用能力が重要だという。情報を収集・分析・体系化し,知識と洞察力を総動員して課題を解決する能力だ。11月に出来上がった雑誌で稲田さんが書いたエピソードを初めて読んだ。次のとおりだ。

 「私は以前,PHSの海外展開のお手伝いをしたことがある。PHSは中国を中心に9000万人を超える加入者を有した時期がある。この小さな成功は,ある外国人技術者の指摘から始まったといっても過言ではない。彼が指摘したのは移動通信ではなく,移動しても利用できる固定電話としての利用である。すぐにさまざまなルートから売り込み対象国の情報を収集・分析し,これでいけると確信した後は産業界との意識合わせ,開発・標準化戦略の見直し,PR戦略の変更などの対策を進めた。いま振り返ると,最善策がとれたのか疑問もあるが,ともあれこれが短時間で実行できたことがポイントの一つである」

 これを読んで発見したことがあった。「想定外の目的が革新をもたらす」ということだ。PHSはそもそも移動通信が目的だ。しかし,電話の普及が遅れていた当時の中国では,膨大な費用がかかるメタリックケーブルや光ファイバを敷設して固定電話を普及させるより,PHSを使った方が安く,早く,電話を普及出来たのだ。「固定電話の代わり」という想定外の目的でPHSが普及したのだ。

 考えてみれば筆者のやってきた仕事についても同じことが言える。ネットワークの高速化という目的以上に「高価なルータをなくす」ことを狙いに広域イーサネットとスイッチで構築した全国規模の「ルータレス・ネットワーク」や,通話料の削減ではなく設備コストの削減を目的にした「東京ガス・IP電話」などだ。

 想定外の目的は革新につながり,ユーザーに新たなメリットをもたらす。それは,どうすれば発見できるのだろう?