熾烈なグローバル競争を戦う民間企業は、やはり正しい結論を出す。ファンの方には申し訳ないが、ホンダ、ブリヂストン、トヨタ自動車のF1からの撤退の話である。「友愛」ばかりを語り何をしたいのか、イマイチよく分からない民主党政権も、たまには正しい判断を下す。国策スーパーコンピュータの事実上の凍結の話である。

 行政刷新会議の事業仕分けチームが11月13日に、文部科学省が推進する次世代スーパーコンピュータ事業を「限りなく予算計上見送りに近い縮減」としたそうだ。事実上の死刑宣告で、国策スパコンにとっては、まさに“13日の金曜日の悪夢”となった。それに対して批判する意見が多いようだが、私はそうは思わない。以前「スパコンの黄昏」で書いたように、国策スパコン・プロジェクトなど時代遅れと思っているからだ。

 スパコンの黄昏では、こんなことを書いた。「今のIT産業の状況を考えると、そもそも国策プロジェクトという発想が古い。そして、ベクトル演算方式のマシンも古い。驚嘆するようなスピード技術であるのは認めるが、コンピュータがコモディティ化し、グリッド・コンピューティングだ、クラウド・コンピューティングだと騒いでいるご時勢にあっては、恐竜の感は否めない。国の特注品で、特殊すぎて他のコンピュータ製品への技術転用も不可能だ」

 そんなわけで今年5月、プロジェクトに参画していたNEC、日立製作所、富士通のうち、ベクトル演算方式での開発を進めていたNECと日立が撤退した。残った富士通が開発するのは、複数プロセッサでの並列処理が前提のスカラー演算方式だ。これは今風のマシンなのだから、なにも国家主導で開発を進めることはない。民間企業が商売のために作ったマシンを、購入すればよいだけだ。

 今回の事業仕分けでは、国策スパコンと共にGXロケットにとっても13日の金曜日となった。このロケットの開発も抜本的に見直すように結論づけたという。これはある意味、象徴的な話だ。H2Aロケットが立派に育ち、さらに大型のH2Bロケットも打ち上げに成功するなかで、なんで別方式のロケットが必要なのだかと思っていた。「大陸間弾道ミサイルを開発したいのでは」と他国に無用の嫌疑を持たれてまで、別方式のロケットを無理やり開発する必要はあるまい。

 IT風に言えば、ロケットもアプリケーションのほうが重要なはずだ。その意味では、H2Bロケットで打ち上げられ、国際宇宙ステーションとのドッキングに見事成功したHTVは素晴らしい。大変な国際貢献だし、技術者を鼓舞し、宇宙飛行士を夢見る若者に大きな夢を与えるだろう。科学技術立国の看板を色あせさせないために、税金はそんな分野に生きたお金として使うべきだ。

 国策スパコンは、どう見てもHTVではなく、GXロケットと同類である。富士通はもちろん、NECも日立もスパコン事業から徹底したわけではない。H2Bロケットのような高性能は期待できないかもしれないが、必要なそうした商用マシンを使えばいい。日米経済戦争の頃とは違う。性能が足りなければ、IBM製品でも導入すればよい。プログラム資産をどうするんだというなら、それこそ、そこに税金を使えばよい。

 世界一速いスパコンを作れなくても、日本のIT力、ましてや国力の劣化にはつながらない。例えば、自前のコンピュータ・メーカーを失った英国がIT力を劣化させたなどという話を聞いたことがない。それどころか、米国と共に世界経済を破滅の淵まで追い込んだ金融テクノロジというモンスターまで、スパコンをフル活用して作り上げている。もはや日本も世界最速を争うスパコンF1グランプリから“撤退”すべきである。

 本物のF1から撤退するホンダやトヨタは、F1撤退により大きなパラダイムシフトに備えようとしている。金に糸目を付けず開発したF1マシンは、ガソリンを鯨飲し世界最速を争うモンスターだ。商用車への技術的波及効果はイマイチ「?」だが、ブランド力向上と社内のモチベーションアップに絶大な効果があったはず。世界同時不況の直撃を受けたとはいえ、それでもF1から撤退するのは“スピードの時代”から“エコの時代”への移行に備えてのことだろう。

 もはやスピードは自動車の付加価値になり得ず、全社を挙げて電気自動車など次世代カーの開発に集中しなければならない。F1撤退はそうした経営トップのメッセージだ。翻ってIT業界を眺めると・・・。動きの速いIT業界は過去に二度パラダイムシフトがあった。そうして今が三度目だ。日本のITベンダーはまたもや、米国ベンダーの後をついて行くことしかできそうにない。国策スパコン自体のことより、そちらのほうが大問題なのだが。