経営統合の動きが目立つ。2009年11月19日、化学最大手の三菱ケミカルホールディングスが繊維大手の三菱レイヨンの買収を発表した。11月6日には、住友信託銀行と中央三井トラスト・ホールディングスが経営統合を発表。その2日前の11月4日には、パナソニックが三洋電機に対するTOB(株式公開買い付け)を始めると発表した。

 10月30日には、2010年4月の経営統合を目指す3グループが事業計画などを一斉に発表した。新日本石油と新日鉱ホールディングスは新持ち株会社「JXホールディングス」などの概要を、損害保険ジャパンと日本興亜損害保険は新グループ「NKSJホールディングス」の事業計画を発表した。三井住友海上グループホールディングス、あいおい損害保険、ニッセイ同和損害保険は、持ち株会社「MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス」の役員体制を発表した。

 10月28日にはマネックス証券とオリックス証券が合併を発表している。さらに、キリンホールディングスとサントリーホールディングスが経営統合に向けた交渉を続けており、地方銀行の経営統合も進みつつある。

 いずれのケースでも、経営者は速やかに経営統合を果たして統合効果をいち早く得たいと考えている。統合効果とは、売り上げの拡大、収益力の向上といったものである。

 その証拠に、経営統合する企業の経営トップが並んだ記者会見に出席すると、必ずと言っていいほど「シナジー効果を発揮できる」「大きな合理化効果が見込める」といった台詞を耳にする。先日もある統合会見で実際にこのようなコメントを聞いた。

 だが、統合効果を得るには、その前提として商品やサービス、業務プロセス、事業戦略、組織文化を一つにしなければならない。ここで避けて通れないのが情報システムの統合である。

成否はシステム部門次第

 システム統合は、異なる企業の社員が一つのプロジェクトに取り掛かる、いわば初めての共同作業である。プロジェクトを成功させることができれば、効率化やコスト削減といった直接的な効果に加えて、組織文化の統一やチームワークの強化などの間接的な効果も得られる。

 というのもシステム統合は経営者、営業部門、生産部門、経理部門、人事部門などすべての人あるいは部門が関与するプロジェクトだからだ。経営統合する企業の各部門が互いの業務プロセスを明らかにして、それらの違いを確認する。同時に、新会社の業務プロセスを描き、現行業務との差異を洗い出す。こうした作業に全社で取り組まなければならない。

 これらの作業は、情報システム部門が中心的となって進める必要がある。システム部門には、各部門の要件を取りまとめる、検討項目と期限を示して決断を促す、現場では答えが出せない問題について経営層と密接に連携を取りながら解決する、といった役割が求められる。経営統合の成否はシステム部門次第であると言っても過言ではない。

 大舞台を前に、システム部門は何から手をつけたらよいか。本来なら腕の見せ所、といきたいところだが、なかなかそうはいかない。というのも、システム統合の方針や進め方は企業によってさまざまで、この順序で何をどうすれば必ずうまくいくというマニュアルは存在しない。

 数カ月おきに繰り返す機能強化や法制度対応、数年ごとのシステム再構築とは違って、システム統合を経験する機会はめったにない。一部の金融機関を除き、システム統合は初めての経験だというシステム部員は珍しくないはずだ。人間だれでも、経験したことがない初めてのことをいきなり成功させるのは難しい。

 だが、経験者の経験を生かせるとなれば話は変わってくる。システム統合の経験者から苦労点や工夫点を聞いておけば、プロジェクトの途中で問題が発生する前に先回りして対策を打てる。もちろんすべての問題を未然に防ぐのは困難だが、先行事例を知って損することはない。