「日本のIT(情報技術)産業で世界一になった技術や製品、サービスというのは、後にも先にも東芝のノート・パソコンぐらいしかありません。ことIT産業では、なぜ日本企業が世界で勝てないのか。その理由を説明できますか?」

 かなり以前のことだが、日本のあるITコンサルティング会社の経営トップにこう聞かれた。私が答えに窮していると、その経営トップはズバリ言った。「ユーザー企業のレベルが低いからです」

 日本のユーザー企業は技術的に高度な要求や厳しい注文ができない。このため、日本のITベンダーが育たなかった。これが経営トップの主張である。「大手ユーザー企業である銀行は保守的で冒険しようとせず、しかも『横並び』ときています。新しい技術を果敢に取り入れて革新的なサービスや金融商品を開発しようというチャレンジ精神など全くありませんでした。だから国内ITベンダーから世界に通用する革新的な技術や製品が生まれなかった。私はこう考えています」

 これに対し、「米国の金融機関はチャレンジ精神に富んでいます」と経営トップは話す。「革新的な技術や製品を要求するので、米国のITベンダーはかなり鍛えられました。ベンダーに対して厳しい要求を出すのは金融機関に限りません。国防総省をはじめとする軍事関係の政府機関や企業も、高度なセキュリティー技術などを随時要求しています」

 ユーザー企業が出す高度な要求に応えるには、ITベンダーは高い技術力を磨く必要がある。「こうして厳しく鍛えられた結果、米国のITベンダーは世界をリードするポジションを手に入れたのです」

 確かに「世界一」を手にしたのは、東芝のノート・パソコンくらいだ。 この話を聞いて、妙に納得してしまったことを覚えている。

世界に勝てる可能性があるコンビニのIT

 しかし、少なくとも日本企業は、自動車やAV(映像・音響)機器では世界を席巻した。だったらITでも、世界を席巻できるはずではないか。私は一方でこのように思っていた。

 ITにも日本が勝てる分野がある---。「経営とIT新潮流」の人気コラム「ダメな“システム屋”にだまされるな!」の最終回で、著者の佐藤治夫さんは指摘している。その1つがコンビニエンスストアを支える情報システムだ。

 もともと米国で生まれたコンビニ。だが、真の意味でのビジネスモデルを確立したのは、セブン-イレブン・ジャパンだと言っても過言ではない。顧客視点に立ち、小規模店舗で利便性のあるサービスの提供によってコンビニ業態を確立した。

 その際に、情報システムが大きな役割を果たした。同社はPOS(販売時点情報管理)端末やバーコードリーダー、高速光ファイバー、データベースなどのITを駆使している。

 POSによって売れ筋商品と死に筋商品を割り出し、死に筋商品を棚から外して、頻繁に新商品を入れる。結果的に、顧客が欲しいと思う商品だけを棚に並べることで、利便性を提供している。

 消費者が何かを求めてコンビニに駆けつけると、欲しい商品がすぐ手に入る。真夜中でも早朝でも、公共料金を支払ったり、ATM(現金自動預け払い機)でお金を引き出したり、振り込んだりできる。「こんな便利な店はない」ということで、我々の生活になくてはならない存在になった。

 国内コンビニ市場は、既に飽和状態に陥っている。しかし、アジアを中心に日本のコンビニは拡大しつつある。コンビニを支える情報システムはグローバルで「世界一」になる可能性を秘めているのだ。