“見える化”の考え方が広がったことで、様々な事象を数値で表す機会が増えている。IT分野でも、TCO(所有総コスト)やROI(投資対効果)といったシステム全体を対象にした指標から、CPUの処理速度や記憶容量といったスペックまで、機能・性能を表す数値には事欠かない。しかし、その数値が示している価値は、利用者や評価者に伝わり正しく認識されているのだろうか。数値化された機能・性能を判断するには、利用場面との“かけ算”が不可欠だ。

世界が中国に目を向ける理由

 まずは中国にまつわる簡単なクイズを二つほど。

問1:自動車普及率が4%程度の中国市場に、自動車メーカー各社が躍起になるのはなぜ?

問2:建機大手のコマツが開発・販売するハイブリッドモデルが中国で売れているという。燃費向上率25%をうたうものの、価格は約1.5倍。このハイブリッドモデルが中国で売れるのはなぜ?

 いかがだろうか。「簡単すぎる」という方は、回答・解説部分を読み飛ばしてほしい。

 問1の答えは、言うまでもなく人口規模が大きいからだ。中国の人口は現在、13億人強。その中で自動車の普及率が1%違えば、生産・販売台数は1000万もの違いになる。これは、トヨタ自動車でいえば、グローバルでの年間生産台数を上回る数になる。

 中国と並んでインドが話題に上るのも理由は同じ。現在インドの人口は12億人弱だが、2030年には中国の15億人弱に対し、インドは20億人弱にまで増えるとされている。そこでの自動車普及率の変化は、人口が逆に減っていく日本市場での攻防以上に、メーカー各社の生産体制や事業性を左右する。

 自動車業界に限らず、1家に1台、1人に1台といった形で所有される製品を開発・販売する業界にあっては、購買力を付けてきたアジアや南米、アフリカなどを含め、グルーバル戦略が過去になく重要になってくる。

 では問2。回答は建機の稼働時間が長いため。その背景には、中国における人件費の安さがある。

 中国におけるハイブリッド人気の理由はこうだ。人件費が安い中国では、例えば3交代制などで建機は24時間稼働しているという。結果、建機の年間稼働率は日本の約1500時間に対し、中国では約3000時間になる。運用管理コストに占める燃料費の割合も、日本の17%に対し中国のそれは55%である。

 そうした状況下で燃費が25%向上すれば、運用管理コストの削減に大きく効いてくる。燃料費の占める割合が3倍の中国では、ハイブリッドモデル導入による燃料費の削減効果も3倍になる。そのため、一般機種より高いハイブリッドモデルの導入に積極的といわけだ。

 一時期、世界の総人口を100人に想定するなど、全体を100にすることで、例えば日本など人口数が少ない国の文化やものの見方が、非常に限られたものであるといったことを強調するプレゼン手法が話題になった。確かに大きな対象を分かりやすくするためには、こうした“割り算”が適していたかもしれない。

 しかし、上記二つのクイズにあるように、指標化された数値の意味を考える際には、“かけ算”によって元の大きさに戻したり、あるいは別の要素と掛け合わせたりすることで、その意味に気付いたり新たな事象を発見したりができる。