ITproの連載でもおなじみの吉岡英幸ナレッジサイン代表には『会議でヒーローになれる人、 バカに見られる人』(技術評論社、2005年出版)という著作がある。自己主張の激しい「メダツンジャー」、話を脇にそらせる「トブンジャー」、意見を言わない「ダマルンジャー」といった会議の“困ったちゃん”の傾向と対策を解説した、抱腹絶倒の1冊だ。

 ファシリテーターとして様々な会議を仕切ってきた吉岡氏は、これらの困ったちゃんに巧みな手法で対応する。メダツンジャーには適度に相づちを打ちつつ、ほかの人にも意見を求める。トブンジャーには「で、結論は」と本論に立ち返らせる、といった具合だ。

 吉岡氏の手法に感心しつつも、筆者は「自分にはできそうもないなあ」と感じてしまう。手練れのファシリテーターでなくても、会議での困った行動にうまく対応することはできないだろうか。こんなことを考えていたら、先日『マインドマップ会議術―会議の質を劇的に高める「一枚の絵」』(ダイヤモンド社)を出版した高橋政史氏がヒントをくれた。

誰もがファシリテーターになれる

 高橋氏は現在、「マインドマップ」を企業に導入するインストラクターとして活躍している。マインドマップについてはご存じの方も多いと思うが、英国のトニー・ブザン氏が開発した思考整理ツールである。

 同氏が以前、戦略コンサルティング会社に勤務していたころに、顧客企業の経営会議などのファシリテーターを務める機会が多かったという。そのときに注目したのがマインドマップである。「マインドマップを使えば、誰もがファシリテーターになれるから」だというのが理由だ。

 マインドマップでは、中心にテーマを書く。続いて、テーマに関連するトピックを大きな枝として書き出し、それぞれのトピックに関連するアイデアを小さな枝として書き加えていく。アイデアの創出を促しつつ、相互の関連性を整理していく効果があるとされている。

 これを会議の記録に適用したのが、マインドマップ会議だ。議題を中心に、議論の論点を大きな枝として書き出し、個々の意見を小さな枝でつないでいく。商品企画会議なら、「ターゲット顧客」「価格」「販路」といった論点を大きな枝として書き出し、個々のアイデアをマッピングしていくという段取りだ。

 このやり方はトブンジャー対策になる。現在の論点から外れた意見が出たら、ほかの枝の下に書き留めておく。これで、その人の意見を反映しつつ、「今あなたが言ったことは、現在の議論のエリアからちょっと外れていますよ」ということを示せる。

 高橋氏は「議論に入る前に、まず個人がそのテーマについて自分なりのマインドマップを書いておくこと」を勧めている。自分の意見をあらかじめ書き出しておけば、ダマルンジャーから発言を引き出す効果もある。

会議の「型」が脱線を防ぐ

 マインドマップ会議では会議の進め方に一定の「型」を作ることで、メンバーの困った行動を抑制し、会議の生産性を上げる効果が期待できる。特有の「型」を持つ会議手法は、他にもある。昨年から話題になっている「質問会議」はその1つだ。

 質問会議は、質問とそれに対する回答だけで会議を進める手法である。様々な角度から質問をし、メンバー一人ひとりがじっくり考える。このような手順を採ることで、より良いアイデアが出る効果が期待できる。

 この形を採ると、自説を一方的に押しつける人を封じ込めることができる。これが、もう1つの大きな効果だ。

 会議での発言は、質問かそれに対する回答に限定している。自分のロジックを長々と展開したり、ほかのメンバーに押しつけたりするような発言は出てこない。メダツンジャー対策になるというわけだ。

 もちろん、マインドマップ会議や質問会議がすべての会議に有効であるとは限らない。例えば、短時間で結論を出すような会議などには向かない。

 とはいえ、「うちの会議はダマルンジャーばかりで」などと愚痴るよりもまず、会議の「型」のいずれかを取り入れて、会議の進め方を変えてみてはいかがだろうか。その際には会議の目的やタイプに応じて、ファシリテーション手法を使い分けるのがベストだろう。

 日経情報ストラテジーは12月1日、「コミュニケーション・ロスを撲滅せよ 事例に学ぶ!仕事の生産性を上げる会議運営術」と題したセミナーを開催する。その中でマインドマップ会議や質問会議の手法と活用事例を詳しく紹介する。会議の“困ったちゃん”対策を含め、会議に悩みを持つ管理職やビジネスパーソンの皆さんの問題解決に、ぜひ役立てていただきたい。