経済産業省が10月14日から11月14日までの1カ月間、「電子経済産業省アイディアボックス」というサイトを開設している。電子政府の取り組みに関して、国民のアイデアを吸い上げるとともに、参加者同士で情報交換・議論するためのサイトだ。オバマ大統領の政権移行チームが、公式サイトで政策に関するアイデアを吸い上げたのと同様の取り組みである(ちなみに、米セールスフォース・ドットコムのSaaSを利用した点も同様)。経産省のサイトは「試験的な開設」であり、常設されるわけではない。

 この記事を読み進める前に、まずはこのサイトを訪ねていただき(URLはhttp://www.open-meti.go.jp/)、ウェブページ上部にある「アイディア一覧」というタブをクリックして、どのような仕組みであるのかを確認していただきたい。

 11月6日時点では、登録ユーザー数は799人、投稿されたアイデアは276件、コメント数は739件となっている。このサイトは、投稿されたアイデアに対して賛否を表明する投票機能も備えており、投票総数は4152件である。経産省によると、サイト開設後の1週間(10月14日~20日)でページビューが22万にも上ったという。電子政府という専門的なテーマを扱っていることを考えると、官製のウェブサイトとしては、なかなかの「人気サイト」だといえるのではないだろうか。

 参加者による議論も内容が濃い。例えば、「人気のアイディア」のトップにある「住民票や戸籍はネットで取れるようにして欲しい」というアイデア(スレッド)では、23件のコメントが付いている。ほとんどが長文で、そこまでのコメントを受けての議論になっている。経産省の担当者(ニックネームは「経済産業省アイディアボックス担当」)も資料(公開文書のURL)を提示したり、話の交通整理をしたりと、コメントを投稿している。ある関係者に聞いたところ、関連する資料をまとめるだけでも時間がかかることもあり、このサイトのためにかなりの手間暇を割いているそうだ。

提案されたアイデアの「その後」を示すことが大切

 ただし、課題もある。このサイトでいくら良いアイデアが出ても、そして投票機能で賛成の票を多く集めても、それを実践あるいは検討するのか否かが不透明な点だ。サイトの説明文書には、「期間終了後には、結果を前向きに検討するのはもちろんのこと、結果を報告させていただきます」と掲げてはいる。該当の部署にアイデアを報告し、検討してもらうことは可能だろうが、複数の部署にまたがる改革が必要なアイデアなどは検討チームを作ることも簡単ではないだろう。

 例えば、「電子政府を総括しましょう」というアイデアでは、当事者にとって耳の痛い話もあり、少なくとも筆者には、どこの部署の誰に話を持っていけばよいのかも見当がつかない(おそらく、経産省だけで事を進められる案件ではない)。重要なことは、参加者が議論したアイデアの「その後」の透明性を確保することだ。採否の検討にさえ至らなかった案件があったとしても、「その後」をきちんと報告することが大切なのである。

 国民だって、改革が簡単でないことは十分承知だ。アイデアが採用されなくても、それを生かそうと努めたプロセスが見えれば、自分の提案や議論が無駄でなかったと理解してくれるだろう。こうしたフィードバックの仕組みを作らずに提案を吸い上げる一方通行では、この後に本格導入するにしてもアイデアを出してくれる参加者がいなくなってしまう。

 何はともあれ、今回、経産省が国民の意見や議論を吸い上げる仕組みを作ったことは大きな意味があると思う。これまでも規則や命令の制定の際には、パブリックコメントという制度があるが、一般の国民にとっては敷居が高い。実際、パブリックコメントの結果を見ても、大手企業や業界団体などが中心で、一般の国民の声は十分に吸い上げられていないのが現実だ。経産省には、今回の試験運用を有意義なものにしてもらって、ぜひとも、他省庁にも広げていってもらいたいと思う。

 ただし、先の関係者の話を聞くと、実際の運用には相当な負担がかかるそうなので、常設するのは難しいだろう。そこで、例えば国の制度として、従来のパブリックコメントと併用して個人レベルの声を吸い上げるといった運用が考えられる。あるいは、民主党政権が掲げる子ども手当や私立高校の学費軽減など、施行までの期間が時限的なテーマに絞って、サイトを立ち上げることが現実的な運用ではなかろうか。