クラウド・コンピューティングを語る際に、詳細に検討していなかったことについて考えてみる。ユーザー企業の情報システム部門のことだ。ITベンダーが何らかのシステムをサービスとして提供するわけだから、単純に言えばシステム部門はスルーできる。さらに安易に考えれば、システム部門不要論となる。だが、本当にそうか。ITベンダーとしては、ここをよく見切っておかなければならない。

 おそらくシステム部門は今後、ITベンダーと同様、サービス・プロバイダへの道を本気で模索することが必要になる。以前も「システム部門は利用部門に対するソリューション・プロバイダにならなければいけない」と書いたことがあるが、クラウド時代にはサービス・プロバイダといったほうが分かりやすいだろう。サービスとしてのソリューション、ソリューションとしてサービスを利用部門に対して提供するわけで、これはITベンダーが目指す方向と変わりはない。

 クラウドの話をする場合、パブリック・クラウドとプライベート・クラウドに分けて説明することが多い。パブリック・クラウドは言うまでもなく、グーグルやアマゾン・ドット・コムの企業向けサービスのような共同利用型&低料金サービスのことだ。一方、プライベート・クラウドとはユーザー企業自らが社内、あるいはグループ企業向けに提供するサービスを指す。

 さて、このプライベート・クラウドという言葉は、実は極めてあざとい。外資系ITベンダーなどが喧伝するプライベート・クラウドとは、仮想化技術を使ってサーバー/ストレージ統合したシステムの別名でしかない。「今風のクラウド化を推進することで、コスト削減が図れますよ」と説く。その上で、「仮想化技術を使いこなすのは大変だから、アウトソーシングされてはいかがでしょうか」と提案する。つまり、リプレース&アウトソーシングという大型商談を推進するためのキャッチ・ワードにすぎない。

 しかし、ユーザー企業のシステム部門がクラウドの意味を真剣に考えるならば、様相が違ってくる。従来のシステム部門を多少デフォルメして言うと、使い勝手の悪い、あるいは使い物にならない高額なシステムを作っては、現場に利用を強要し、そのコストを一律に配賦するようなことを平気でやっていた。だから、長期にわたるシステム部門の凋落を招き、不要論・解体論まで登場するような事態に立ち至った。

 さてプライベート・クラウドの話だ。システム部門がシステム発想ではなく、ビジネス発想でクラウドについて考えるならば、システム部門のあるべき姿が見えてくるはずだ。クラウドって「お客様が必要なものを、必要な時に、必要な量だけ、安く提供するサービス」のことだ。システム部門がプライベート・クラウドを構築・運用するならば、彼らも当然そうあるべきなのだ。つまり企業内の(クラウド)サービス・プロバイダである。

 サービス・プロバイダはシステムを作ることではなく、サービスを提供することが本質なのだから、自ら投資して構築・運用しなければならない範囲は限られる。それ以外の必要なサービスは、それこそグーグルやアマゾンのパブリック・クラウドが使えるのなら、自らの責任で調達して、自らのサービスとして利用部門に提供すればよい。問われるのは、お客様(=利用部門)のために必要なサービスを安く調達するかという目利き力であり、自ら提供するサービスも含めたサービス・インテグレーションの力である。

 さて、ユーザー企業のシステム部門がそんなことを真剣に考えた時、ITベンダーはどうすればよいのか。答えは簡単で、信頼されるパートナーになればよいのである。顧客が必要なサービスを自ら提供するだけでなく、顧客の眼となり他社のサービスを調達する。あるいは、顧客の運用の手間とコストを軽くするために、プライベート・クラウドのアウトソーシングを引き受ける、そんなイメージである。要は、プライム・サービス・プロバイダを目指せばいいわけだ。

 システム部門がそんな発想を持たなかったら・・・その時は遠慮なく、ユーザー企業の経営に働きかけてシステム部門に取って代わるか、乗っ取ってしまえばいい。ITベンダーがユーザー企業のシステム部門の役割を果たす。これも以前からあった発想だが、クラウド時代はよりリアリティが増すことだろう。