「経営とIT新潮流」サイトでは2009年3月以来、「トップインタビュー 大淘汰時代を勝ち抜く」というインタビューコラムを続けている。米国のサブプライム・ローン問題に端を発している金融・経済危機は最悪期を脱したものの、2010年前半に景気は「二番底」に落ち込むのではないかと懸念されている。とりわけ少子・高齢化が進む日本にあっては、さまざまな業界で淘汰・再編が本格化するだろう。

 閉そく感がただよう日本経済を活性化するためには、国も企業も大胆な発想とたゆまぬ改善活動が必要だ。「トップインタビュー 大淘汰時代を勝ち抜く」では、突破口を開くべく活躍する企業のトップに登場していただいている。10月27日に公開した同コラムでは、リゾート施設や老舗旅館をいくつも再生してきた星野リゾートの星野佳路社長に話を聞いた。

観光産業は地方の基幹産業になる?

 「観光産業は地方の基幹産業になる」。星野社長はこう言い切る。

 「えっ?」と思う人は多いだろう。地方の観光産業は、基幹産業というより斜陽産業のイメージが強いのではないか。星野社長は、リゾート施設や老舗旅館の再生で腕をふるってきた。それでも、今回の「100年に一度」という世界的な金融・経済危機の影響を少なからず受けているのではないか。筆者はこうみていた。

 ところが、星野社長は「ほとんど影響を受けていません」と話す。「不景気が業績に響いたのは、企業利用の割合が大きい3施設だけ。ほかの施設は軒並み増益になっています」というのだ。

 その理由として、星野社長は3点を挙げる。要約すると以下のようになる。

 1つ目は、景気が悪くなると海外旅行から国内旅行にシフトすること。海外旅行に行く日本人は年間1700万人に上るそうだ。これが不況になると、ハワイやオーストラリアではなく、伊豆半島や沖縄に行く。海外旅行客という1700万人分のバッファがあるので、国内旅行は影響を受けないそうだ。

 2つ目は、国内宿泊施設への需要が偏っている点だ。お盆や正月、ゴールデンウイーク、そして土曜日などに集中しているという。この時期は宿泊施設の稼働率がほぼ100%で、申し込みを断っているケースも多い。不況になっても、断るケースは少なくなるが、稼働率は変わらないそうだ。

 3つ目の理由は、日本人にとって国内旅行が必需品になっていること。特に家族旅行と中高年の旅行へのニーズが高い。

 家族旅行については、子供が中学校に入学するまでは必ずどこかに旅行に行くそうだ。子供が親と旅行に行くのは多くの場合、小学生までだからである。こうした旅行は「今年は不景気だからやめよう」とはならない。「子供と一緒に旅行したい」という親の強い気持ちが、国内旅行需要を支えているのだ。

 中高年の「体が健康のうちにいろいろなところに出かけよう」という強い思いもまた、国内旅行の需要を支えているという。体が動かなくなったら、いくらお金があっても、旅行には行けないからだ。時間に限りがある以上、いくら不景気になっても、今年の旅行を取り止めたりはしない。

ITを活用して改善を繰り返す

 不景気でもあまり影響を受けない国内旅行だが、工夫次第で需要はより拡大する。星野社長が提案するのは、祝日や昼休み時間の分散化だ。

 「サービス業は製造業のように在庫を持てない。ゴールデンウイークなどの大型連休になると、ホテルや旅館に予約が殺到するが、部屋数を超えるとすべて断らなければならない」。祝日を分散化して極端な話、毎日どこかの都道府県で祝日があれば、地方の観光地にあるホテルや旅館の稼働率は大幅に高まるわけだ。

 星野社長によれば、フランスの場合は地域によって祝日を変えることで、分散化を図っているという。その結果、スキーシーズンには宿泊施設の稼働率が毎日高い水準をキープしているようだ。

 昼休みの時間帯も同じだ。製造業中心の社会では、ものづくりの効率化、つまり工場の稼働率をいかに上げるかにあった。このため、朝8時に一斉に工場を稼働させ、12時から13時まで休憩を取った。人の行動は工場の稼働に合わせており、工場が止まっているときに昼食をとらなければならなかったわけだ。

 現在では、昼食時間を無理に12時前後から13時前後に限定する必要はない。11時前後から15時前後まで分散させれば、オフィス街のレストランの稼働率は一気に上がることが期待できる。以上のように、これまでの習慣や法制度などを変えるだけで、サービス産業を大きく活性化できる。