熱しやすく冷めやすい。そんな筆者が、ここ数年追い続けているのが「仮想化技術」である。「サーバーの統合が容易」「古いOSも動かせる」など仮想化のメリットは広く知られてきた。その価値は「システムに自由(フリーダム)をもたらす」ことだと、あらためて感じている。

「10年後に通用するインフラを作りたい」

 筆者は、サーバー仮想化の第一次ブームを2005年~06年と見る。アステラス製薬や住友電気工業などの取材を通じ、仮想化技術の可能性を肌で感じた。その可能性とは「ハードウエアの制約を解放できる」というものだ。

 仮想化技術は、ハードとソフトの間に分け入り依存関係を断つ。ハードの寿命に引きずられることなく、ソフトが使い続けられるようになる。しかも、OSやアプリケーションを包み込んだ仮想マシンは、理論上、どんな場所にあるどんなサーバーでも動く。斬新な発想に筆者は飛びついた。

 「10年たっても使い続けられるインフラを作りたい」。ツムラ 情報技術部の佐藤秀男 部長はこう話す。同社は現在、仮想化技術を使ったサーバー統合プロジェクトを進行中だ。

 従来は老朽化やリース切れでサーバーを更新するたびに、OSやアプリケーションを強制的に引っ越す必要があった。その際に,エンジニアは「これまでどおり動く」ことを引っ越し先で証明しなければならない。仮想化技術を使えばこうした作業が不要になり、10年たっても通用するインフラにつながると期待できる。

新たなアイデアを生み出す力を秘める

 最近、ヴイエムウェアでサーバー事業部門担当バイスプレジデントを務めるラグー・ラグラム氏にインタビューする機会があり、わが意を強くした。彼に話を聞くのは3度目で、今回は5月に出荷した同社の仮想化ソフト「VMware vSphere 4」へのフィードバックなどが話題の中心だった。

 取材の最後にふと思い付き、こう尋ねてみた。「仮想化の根本的な価値は何か」。ラグラム氏は少し間をおき、「Freedom」と答えた。

 仮想化ではハードとソフトを分けて考えることで、システム作りの自由度が上がる。わかりやすい例は、システムの稼働後に、負荷状況に応じてリソースを簡単に足し引きできるようになること。仮想マシンに与えるリソースのパラメータを調整すれば済む。

 あるサーバー機のリソースが枯渇しそうになったら、仮想マシンを別のサーバーに移動させるといった芸当も可能だ。「VMotion」や「ライブマイグレーション」と呼ばれる仮想マシンの移動機能を用意しているので、作業はたやすい。

 東広島市役所は仮想化技術を取り入れたうえで、システムの発注方法を変えた。ハード構築とシステム構築を分割発注するようにしたのだ。目的はコスト削減にある。従来はITベンダー1社に、ハード調達からアプリケーション開発までをまるごと委託していた。仮想化レイヤーで境界を設け、仕事を二つに分けた。仮想化技術はこうした新たなアイデアを生み出す力を秘めているのだ。

システムのポータビリティを高める

 仮想化に対して「新しい技術ではない」と指摘する声を耳にすることがある。多くの場合は、メインフレームのLPAR(Logical PARtitioning、論理区画)を引き合いに出している。

 しかし、仮想化技術が古いか、新しいかという議論はあまり重要でないと筆者は考えている。メインフレームとサーバーでは仮想化の目的が異なることを理解し、活用法を考える方が前向きだ。

 メインフレームは、もともと大勢で分け合って使うものである。LPARの基本的な目的は、1台のメインフレームを本番と開発などに区画分けし、互いの業務が影響し合わないようにすることだ。

 余談だが、筆者はエンジニアとして働いていたときにLPARを切ったことがある。モジュール化した構成定義を休日にテストしておき、月曜の朝に反映する。うまくシステムが立ち上がらない場合は以前の構成に戻す。週初めから手に汗を握っていた記憶がある。

 一方のサーバー仮想化は、システムのポータビリティ(移植性)を高めることが目的だ。仮想化技術の利用方法としてよく挙がるサーバー統合は、仮想化が示す実力の一端に過ぎない。仮想マシン上に構築したシステムは、いろいろなサーバーで動かせる。このポータビリティにもっと着目した方がよいと、筆者は常々考えている。

 活用法の一つが、ディザスタリカバリ・システムの構築である。仮想マシンの定義とデータを遠隔のデータセンターにコピーするだけなので、仕組みはそれほど難しくない。