情報化社会では社員一人ひとり,各部門,会社全体がIT技術を使って生産性を上げ,IT技術を戦略的に活用して新規ビジネスや商品の創造,顧客サービスの向上などを図り,企業の体質強化や競争力強化を行なうことが極めて重要である。日本では,マスコミや有識者やIT企業が「企業にとって情報戦略は極めて重要である」「情報システム部門(情シ部)は情報戦略部門になれ」「CIOは役割を果たせ」などと論議がにぎやかである。

 前回は,それについてあるベテランSEから「“情シ部は情報戦略部門になるべきだ”と長年言われていますが,日本ではなぜそれがなかなか進まないのでしょうか?」という主旨の質問をもらったので,それに対して「日本の情シ部はそれに応えるだけの力がない。それは日本企業の多くの情シ部は会社の経営やビジネスや業務に暗いからである。それでは企業全体を考えた情報戦略を企画・立案しそれを遂行することは難しい。背景には,情シ部の生い立ちの歴史がある。情シ部は他部門との人事交流が少なく,システムの開発・保守・運用を行なうだけの技術屋集団になったという歴史である」と筆者の考えを述べた。異論のある方もいると思うが,筆者としては少なくともIT関係者の方々への問題提起になれば幸いだと考えている。

 一口に情シ部の情報戦略部門化と言っても,人によって解釈が違うと思うが,筆者は次のように考えている。情シ部の情報戦略部門化とは,情シ部が“企業の競争力強化・体質強化のために全社的・戦略的視点で計画的に社内各部門の業務のシステム化,システム基盤の構築,セキュリティや社員のITリテラシー教育などITに関わる事柄を企画・立案し,その遂行部門になることである。単に,ユーザー部門の要請に基づいて,システムの開発・保守・運用するということではない。

情シ部が解決すべき三つの課題

 では,情シ部が企業の情報戦略を企画・立案し,会社の先頭に立って企業の情報化を推進する部門になるために何をすればよいか。このテーマは日本の情シ部にとって長年の課題である。その答えは情シ部の会社の中での立場・位置づけによって異なり,すべての企業の情シ部に通じる答えはないかもしれない。ただ,筆者はこれまで仕事上多くの情シ部の管理者の方々と情シ部のあり方について話したり討議をしたりしてきた。また,筆者自身もユーザー企業の中で働いた経験がある。そんな経験から,情シ部が真に企業の情報化を推進する情シ部になるためには“解決しなければならない問題”が少なくとも三つあると筆者は考えている。

 それは「技術の空洞化の問題」「情シ部員の意識の問題」「戦略的人事の問題」である。筆者が指摘するまでもなく情シ部の方の中には分かっている方もいるはずだが,なかなか解決できない問題だ。だが,企業の先頭に立って会社の情報化を推進する役目を果たすためには,これらを解決する方向に舵を切らなければ,情報戦略部門になることはとてもできない。今回からそれらについて説明していく。まずは1番目の「技術の空洞化の問題」についてである。