手順書通りに運用作業を実施したかどうかを確認するチェックリスト。仕様書のバグを見つけ出すチェックリスト。ユーザーへのヒアリング事項の漏れをなくすチェックリスト――。

 ITの現場では,さまざまなチェックリストが利用されている。あなたは,そんなチェックリストにどんな印象を持っているだろうか。

 「日経SYSTEMS」11月号でチェックリストの特集を担当することになり取材を始めたところ,現場のITエンジニアから意外なくらい否定的な意見を聞いた。それは,「管理部門が押し付けてくるもので,現場では役に立たない」「現場で重大な作業ミスが起こるたびに,その再発防止策として増えていく負の遺産だ」といったものだ。

 要するに,チェックリストは現場の“嫌われもの”。現場のITエンジニアは,渋々使うか,形式的に使うフリをしている,とのことだった。

現場で改良し「手放せないツール」に

 一方,取材を進めるうち,「チェックリストは役に立つ」「チェックリストで仕事が楽になった」という現場に巡り会った。最初は半信半疑だったが,話を聞いて本当にそんな現場があるのだと確信した。その好例が,NECの立木清武氏(サービス業ソリューション事業部 主任)が統括リーダーを務める運用保守チームである。
 特徴的なのは,数人のサブチームごとに自分たちでチェックリストを工夫していることだ。例えば,システム起動作業の作業手順書を兼ねたチェックリストでは,こんな工夫をしている。

 このチェックリストには,システム起動のための具体的な作業(タスク)が上から並んでおり,右側には各タスクが完了すると印を付けるチェック欄と,完了時刻の記入欄を設けている。ここまでは,よくある作業用チェックリストと変わりない。

 現場ならではの工夫は,各タスクの左側に「2F各機器」「監視端末」など,実施場所と利用するツールを書き込んでいることである。タスクごとの実施場所やツールは,別途用意した手順書を見れば分かるが,チェックリストに書き込んでおくことで,素早く次のタスクに取りかかれるという。その際,紙の帳票,電話,プリンタなど,よく使うツールはアイコンにして,一目で分かるようにした。

 ほかにも,実施しないタスクの背景を網掛けにして目立たなくする,タスクの実施時刻が決まっている場合はそれを記載しておく,重要事項を太い枠線で囲んで目立つようにする,といった細かな工夫をこらしている。

 一つひとつの工夫はそれほど特別なものではないだろう。しかし現場でアイデアが生まれるとすぐチェックリストに反映させてきた結果,作業を行うとき何かと役に立つ「手放せないツール」になったという。

現場が実践する作成と活用の工夫

 取材では,そうした現場の工夫をいくつも見つけることができた。例えばTISのある運用チームでは,作業(タスク)の実施状況を確認するチェックリストにおいて,タスクを行ったかではなく,タスクを行ったことによる結果が正しいかどうかをチェック項目としていた。具体的には,ディレクトリ生成のタスクであれば,「ディレクトリ生成のコマンドを入力したか」ではなく,「そのディレクトリが存在するか」というチェック項目にするといった具合だ。タスクを行ったかというチェック欄では,作業の担当者が複数のチェック欄をまとめてマーキングし抜け漏れが発生したことがあったが,タスクを行ったことによる結果が正しいかどうかをチェックする体裁に変えてからこの問題がほとんど起こらなくなったという。

 もう一つ例を挙げよう。富士通や中堅システム・インテグレータのエスエムジーでは,チェックリストで合格基準を満たさなかった項目をそのまま放置しないように,チェックリストによる診断結果を点数化したりグラフ化したりしている。これは,要件定義書のレビュー用チェックリストやプロジェクトの状態を把握するチェックリストなど,必ずしもすべての項目が合格基準を満たさなくてもよいタイプのチェックリストにおける工夫だ。

 こうしたチェックリストでは,不合格のチェック項目が多いことにITエンジニアが慣れてしまい,改善する意欲に欠けることがある。そこで点数化やグラフ化によって,前回に比べてよくなったのか悪くなったのか,ほかのチームと比べてどうかといったことが分かるようにすることで,ITエンジニアの改善意欲が高まったという。

 「日経SYSTEMS」11月号の特集では,ここで紹介したものをはじめ,現場で培われたチェックリストの作成と活用の工夫をまとめた。加えて,お手本にしたいチェックリストを掲載した。機会があれば,ぜひ目を通していただきたい。

 みなさんの現場でも,チェックリストに改良の余地がないかどうか見直してみてはいかがだろうか。現場が自分たちで工夫すれば,チェックリストは本当に役に立つ道具になる。これが取材を終えて実感したことだ。