今年も仮想化技術を詳解したムック「すべてわかる仮想化大全2010」を発行した。2006年から毎年1冊ずつ新版を発行し,今回で4冊目になる。

 これら4冊を振り返ってみて,わずか3年ほどの間に仮想化技術や構築事例の内容が驚くほど進化したことに気づく。技術的な難易度は比較的低いといわれながらも,仮想化特有の課題・考慮点も毎年のように変わっている。3年前の状況を垣間見るために,最初の仮想化大全(2006年10月発行)の内容を雰囲気だけでも紹介しておこう。

 筆者としては,かつて繰り返し読んだ内容でありながら,久しぶりに読み直すと隔世の感がある。例えば,同書で紹介した仮想化ソフトの多くは,今はなき製品(あるいは製品名)だったり,利用されなくなっていたりする。

 仮想化技術を導入したユーザー事例の記事が全くなかった点も,現在と大きく異なる。当時の仮想化技術は,システム開発現場で開発/テスト環境を仮想的に作り出すためのツールとして使われることがほとんどだった。

 それが今ではどうだろうか。基幹系システムを仮想化する事例が出始めているし,企業内仮想化システムとパブリック・クラウド・サービスとの連携を目指す技術開発も進んでいる。3年前,パブリック・クラウド・サービスは“技術的な裏づけのない将来像”あるいは“空想に近い理想像”として描いていた仮想化の世界だった。インターネット・ブームのときの「ドッグ・イヤー」ほどではないにせよ,予想を上回るテンポで現実化しているのだ。

高度化する用途・要求との追いかけっこ

 仮想化技術の急激な進歩に伴い,この技術を導入する際の課題として考慮すべき内容も変化している。

 これまで仮想化技術の導入は,技術的な難易度が比較的低いとされてきた。既存の業務システムを修正する必要がほとんどないというのが理由だ。それは今でも半分正しいが,そうでない仮想化案件も増えている。仮想化技術の用途が年々高度化し,技術・運用面での要求も高度化しているからだ。

 代表的な例を挙げよう。サーバー仮想化技術が業務システムに本格適用され始めた2年ほど前は,部門システムとして大量導入されていたWindows NT Serverシステムの「延命」が仮想化の主目的だった。そのときは仮想化に向かないシステムの選別や仮想環境への移行方法に課題があったが,すでにツールが整備され,ITベンダーにノウハウの蓄積が進んでいる。もはや技術的に難しくはないといえる。

 その後,仮想化の目的がコスト削減を志向した「サーバー統合」に移ると,キャパシティ・プランニングへの関心がより高まった。1台の物理サーバー上で稼働させる仮想マシンの多重度が上がり,I/O性能のボトルネックが発生しやすくなったからだ。昨年あたりは,性能問題に対する多角的なパフォーマンス検証が盛んに行われ,仮想化用途に最適化したサーバー機も続々登場。I/Oボトルネックの問題は大幅に緩和されている。

 だがここ1年で,可用性と性能の要件が一段と厳しい基幹系システムの仮想化に取り組む企業が増えている。基幹系システムは仮想環境での運用実績が乏しく,ITベンダーにもノウハウを期待できない。まさに手探りで可用性と性能を担保しなければならない点が悩ましい。

 さらに,「10年後も使い続けられるインフラ作り」「省電力化によるCO2排出量の削減」「ストレージ仮想化/ネットワーク仮想化との統合」「パブリック・クラウドとの連携」などなど,より高度な目的・用途が次々に生まれている。

 どんな技術分野にも似たような現象はあるものの,仮想化技術ほど応用範囲が急ピッチで広がる例は少ない。それだけ有望な技術なのだろうが,多かれ少なかれ,常にチャレンジが求められる。

 仮想化で大失敗することは少ないが,「期待通りの成果が出ない」という事例は案外多い。それらに共通するのは,「期待する成果を得るために解決すべき課題」を把握しきれず,取り組みが中途半端なことだという。そうならぬよう,計画段階で十分な検討や検証を進める必要がある。

 その際は,「すべてわかる仮想化大全2010」をぜひ参考にしてほしい。前述したような,より高度な目的・用途を目指した事例や設計法,最新の製品技術をはじめ,仮想化技術の「今」を知るための情報を満載している。