ブランド品にはとんと興味がない。服は古着が心地いいし,靴は雨水が少々浸み込んできても履き慣れたものがなかなか捨てがたい。カバンも地味で長持ちするお古が一番落ち着く。だから話題がブランド品に移ると,なんのことだかサッパリで眠くなる。

 といっても,これは日用品に限った話だ。SFや特撮の分野になると,筆者にも心躍るブランドがある。例えば手塚治虫の「鉄腕アトム」と円谷プロの「ウルトラセブン」。だから「ATOM搭載マシンにWindows 7採用」と言われると,もうネーミングだけで「おいくら?」と尋ねてしまう。

エンタープライズという言葉のカッコ良さ

 IT分野にはこうしたSFがらみの心躍るブランドがいくつかある。その最たるものが「エンタープライズ」だ。この言葉ですぐに企業向けシステムを思い浮かべるようでは尻が青い。ビル・ゲイツやラリー・エリソンらと同時代,つまり「テクノロジがいかにエキサイティングか」がすべてだった80年代から90年代前半を駆け抜けてきた筆者らにとって,エンタープライズといえば,SFシリーズ「スター・トレック」に登場する宇宙艦「NCC-1701」にほかならない。

 例えば,Microsoftが企業向け分野に本腰を入れたWindows 2000の発表会で最初に登場したのは,ビル・ゲイツではなくエンタープライズ艦長役のパトリック・スチュアートだった(関連記事)。また,ラリー・エリソンはかつてOracle OpenWorldの基調講演でビジョンを熱く語った後,「スター・トレック:ディープ・スペース・ナイン」のテーマ曲をかけて開幕を宣言したものだ。米航空宇宙局(NASA)の初代スペースシャトルも,この宇宙艦にちなんでエンタープライズと命名された(関連記事)。皮肉なことに,このエンタープライズはジャンボ機の背に乗せられて滑空するばかりで,宇宙に出ることはなかった。

 というわけで筆者は,「企業システム」と言われると社員に重労働を強いる現場の汗臭いシステムを思い浮かべるが,「エンタープライズ・システム」と言い換えられた途端にクルー(乗員)が愛する誇り高きもの,なにやらカッコいいもの,という錯覚に陥ってしまう。

ATOMの意外な落とし穴,冷却ファンがうるさい

 さて,ATOMプロセッサにはその登場以来とりつかれている。単にその名前が気に入っただけでなく,低消費電力の割りに性能が高い,コンパクトなマザーボードに直付けで低価格,といった魅力がいくつもあったからだ。小さくても力がある。まさに鉄腕アトムを想起させる。

 ところが,実機を手に入れてみると,思わぬ落とし穴があった。まずネットブックのAspire one(AOA150の初期ロット)。ATOM N270(1.6GHz)を搭載しているが,チップセットとプロセッサ近辺にある冷却ファンが高い周波数のノイズを常時発して,静かな場所で使うと耳障りで仕方がない。しかもノイズがだんだん大きくなってガマンできなくなったので修理に出したが,大して改善されなかった。さらにチップセット内蔵のGMA950グラフィックス機構は性能が低く,YouTubeのHD画像(1280×720ドット,H.264方式)を再生するだけでも無理がある。

Intel D945GCLF2Dマザーボードに実装されているATOM330プロセッサ(右)とグラフィックス機構内蔵チップ(左)。プロセッサがファンレスなのに,グラフィックス機構内蔵チップには冷却ファンが付いていて,このノイズが非常に耳障り

 次いで,デュアルコアのATOM330(1.6GHz)を搭載したIntel D945GCLF2Dマザーボード・ベースのデスクトップ機を入手した(関連記事)。このマザーボードはMini-ITX型でコンパクト,PCIスロットを1つ備えており,ビデオ・キャプチャ・ボードを装着して録画マシンを構成するのに最適と思われた。ところが,プロセッサはファンレスなのにGMA950内蔵チップの上に4cm角の冷却ファン(6000回転/分)があり,やはり高い周波数のノイズを常時発して耳障りこの上ない。購入したBTOショップにクレームをつけて一度交換してもらったが,改善されない。再びクレームをつけると,今度は「ファンの口径が小さいのでその騒音は仕様です」と逃げられてしまった。また,プロセッサがデュアルコアになっていても,GMA950の性能の低さには変わりがない。

 それでもまだATOMへの夢は覚めやらない。プロセッサ込みのマザーボードが1万円前後という低価格設定と,オーディオ・ラックに無理なく入るコンパクトさが筆者を捕らえて離さないのだ。IntelはATOMのデキが良すぎたので製品系列の都合上,チップセットでブレーキをかけたとしか思えない。そこで今度は,Intel製ではなくNVIDIA製のIONチップセットとATOM330を組み合わせたマザーボード(ASUS AT3N7A-IやAOpen nMCP7A-ION94など)を試したいと思っている。IONチップセットの場合,HDMI端子とデュアル・チャネル・メモリーをサポートしており,フルHDの再生が無理なくできるという。これでテレビの下に置ける録画機が完成するはずだ。ただ,口コミ掲示板を見ると冷却ファンの騒音はどの製品もあまり変わらないらしく,口径がもっと大きい低速回転ファンに交換して,問題を回避しているユーザーが少なくないようだ。

 昨今,パソコンに限らずデジタル家電の分野でも省電力・省スペースをうたい文句にする製品が多いが,静音性をもっと重視してほしいと思う。また,最近はプロセッサなどの搭載で冷却ファンを装備するAV機器が増えてきているが,騒音の中で音質の良さを喧伝するなど愚の骨頂だろう。