富士通の野副さんが突然、社長を辞任してから2週間が経った。あの9月25日の発表は本当に驚いた。構造改革を強力に推し進めていたトップが突然消えたのだから当然だが、辞任の理由にも合点がいかない。“ミニ富士通”をどうするかが相当負担になっていたという話も聞いたが、真実は今も分からない。ただ、ミニ富士通改革の方向性は絶対に正しいと思うので、その辺りのことを書いておく。

 野副さんが病気治療を理由に社長辞任を間塚会長に申し出たのは、定例取締役会の当日の朝で、辞任の意思が強いことから取締役会もやむを得ず了承したという。あまりに唐突な話で、こういう場合は裏を読むのがスジ。「何かある」ということで、富士通社内でも噂が乱れ飛んだようだが、2週間経っても何も出てこなかった。まあ一国の首相でも病気を理由に突然辞任するくらいだから、余計な勘繰りはよしたほうがよいのかもしれない。

 さて、野副さんの心の重荷になっていたというミニ富士通とは、子会社の富士通ビジネスシステム(FJB)のことだ。計画では、FJBを完全子会社化して上場廃止し、300億円以下の中堅企業マーケットに特化させることになっていた。従来のFJBは大企業にも営業をかけ、富士通も中堅企業に売り込んだりするものだから、FJBのビジネスが富士通のそれとオーバーラップし、時には競合さえする。それがミニ富士通問題だ。野副さんは、それを解消することを目指した。

 ただ、この改革は富士通の中核事業の再編を意味する。FJBから大手顧客を富士通本体に移すだけでなく、人員も異動させる。その代わりに富士通本体から、商材の企画機能も含め中堅企業向けのマーケティング/営業機能をFJBに移す。もちろん人も異動する。中堅・中小企業開拓の先兵となっていたパートナー企業向けの営業支援活動もFJBが担う。

 うーん、確かにこれはもめる。これだけドラスティックにやったら、富士通本体やFJB、そしてパートナー企業の中に、「ふざけるんじゃねぇ」と怒り、抵抗する人が多数出てきても不思議ではない。実際、10月から新生FJBがスタートする予定だったが、そのスケジュールは頓挫した。辞任前に野副さんが間塚会長と経営について最後に話し合ったのは、「中堅企業向け市場をどうしよう」ということらしいから、やはりもめにもめていたようだ。

 野副さんの辞任で、ちゃぶ台返しみたいな話も出てきており、この改革の行方は極めて不透明になっている。だけど冒頭にも書いた通り、この改革の方向性は絶対に正しいので、やり遂げないとダメだと思う。富士通自身が気付いているかどうか分からないが、この改革は結果としてだが、親会社と子会社の顧客を巡る役割分担という矮小な話でなくなるのだ。富士通本体ではできないビジネスモデルの転換を、FJBで実現しようという壮大なテーマが隠れている。

 そもそも、親会社が大企業、子会社が中堅中小企業という役割分担の徹底は、富士通は過去に何度も試みた。ミニNEC、ミニ日立といった同じような問題を抱える他のメーカーもそれは同様だ。ただ、いずれもなかなかうまくいかない。たとえ、親会社と子会社の間での人員のシフトや顧客の交換に踏み込んだとしても、結局は元の木阿弥になる。

 親会社と子会社のビジネスモデルが同じなのだから、考えてみれば、それは当たり前だ。両社ともSIを基本ビジネスとする以上、常に良い条件の顧客を求めるのは当然の習い。で、いくら顧客を売上規模で線引きしたとしても、やがて相互侵犯して、そんな決めはたちまち崩れる。本来なら子会社は、より小規模な中小企業の領域にウイングを広げるべきなのだろうが、なんせ人件費の塊のSI、モノ作り。親会社と同じビジネスモデルでは、中小企業向けで採算がとれるわけもない。

 だから、中堅企業向けのリソースをマーケティング機能ごと移してしまえ、という野副さんの経営判断は極めて正しいのだ。中堅企業以下の市場にしっかりと向き合えば、結論は脱SI、作らない方向へのビジネスモデルの転換しかないからだ。多少のカスタマイズはあるものの手離れのよいパッケージ・ソリューション、そしてこれからはSaaSなどクラウドサービスをどんどん開発して、大規模SIに依存している富士通本体との差異化を図っていくのが、ベストの道なのだ。

 そうすれば、大企業と中堅中小企業の顧客の線引きという、あまり本質的でない話は大した問題ではなくなる。それよりも、FJBが真の意味でミニ富士通から脱皮する意義のほうがはるかに大きい。親会社の“旧型富士通”に対して、クラウド時代に最適化された“新型富士通”が誕生するからだ。

 富士通の新経営体制は、その辺りのところをどう判断しているのだろう。それにしても、経営トップの心身を蝕むほど、大企業の組織いじりは難しい。それでも改革を推し進められるほどのエネルギーが、今の富士通にも存在しているだろうか。