写真●東京・秋葉原の有隣堂では「姉ヶ崎...」のリアル・エアタグとともに売られていた
写真●東京・秋葉原の有隣堂では「姉ヶ崎...」のリアル・エアタグとともに売られていた
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 頓智・(とんちどっと)が開発したiPhone用拡張現実(AR)アプリケーション「セカイカメラ」が2009年9月24日に公開された。このセカイカメラが予想以上に面白くて驚いている。そのために「iPhone 3GS」を購入してしまったほどだ。

 筆者は,6月に発売した「ARのすべて」という書籍(写真)の編集を担当した。この作業を通じて,セカイカメラがどのようなものとして登場するのかは,大体予想できていたつもりだった。アイデアは優れているし,技術的にも興味深い。一方で,サービスとしての魅力はどうだろうか・・・と,少々疑問に思っていた部分もあった。

 しかし,実際に体験してみると,ワクワク感は期待以上だった。

位置にひも付いた非同期コミュニケーション

 セカイカメラの面白さの本質は“位置にひも付いた非同期コミュニケーション”だろう。それをAR的なユーザー・インタフェースで体験できる。

 過去にその場にいた人が投稿した「エアタグ」を見ることで,時間軸を超えてその場に対する共感や一体感,連帯感といったものを実感できる。数日前に自分が投稿したエアタグを発見したときは,昔書いた日記を見つけたような感覚にもなった。

 「ニコニコ動画」は動画視聴を通した非同期コミュニケーションを生み出した。セカイカメラは場を軸とした非同期コミュニケーションを,商業レベルでは世界で初めて実現したと言えるだろう。

画像認識との併用で可能性が広がる

 もちろん,現在のセカイカメラはWebブラウザでいえば「Mosaic(モザイク)」の段階である。改良や発展の余地はまだ多い。そもそもiPhone 3GSでは性能が不十分だ。快適に使えるようになるには,少なくとも2,3世代分のハードウエアの進化を待つ必要があるだろう。

 セカイカメラや今後登場するであろうライバルのARアプリケーションは,将来的に画像認識を併用するとみられる。風景や街の看板などとデータ(エアタグ)をひも付けたり,本のカバーなど特定商品を画像認識して,場所だけではなく,モノとデータをひも付けたりできる機能を搭載するだろう。様々な場所やモノを軸とした非同期コミュニケーションにより,現段階では想像もつかないコミュニケーションのスタイルが生まれそうだ。

 気になるのは,セカイカメラが“実空間2ちゃんねる”になる可能性を否定できないことだ。そうなったとしてもある程度は面白いだろうし,ノイズをすべて排除するとつまらない空間になってしまう。とはいえ,運営サイドは十分なフィルタリング機能を提供したり,悪質な投稿を削除するなど,しっかりとした準備と対策を施す必要があるだろう。

 良い面も悪い面も含め,セカイカメラの可能性は浅学な筆者の予想以上のものだった。前述の「ARのすべて」では「グーグルの次に来る革命はこれだ! 」とやや煽り気味の宣伝文句を付けたが,これは全然煽りではなかったと今では思っている。