若手のメンバーを育成することは,多くの企業にとって重要な課題です。私たちの会社,サイボウズでもまったく同じです。サイボウズの場合,特に若手の比率が高く,入社3年目までの若手社員だけで全社員の3分の1くらいを占めます。若手がこれだけ多いと,育成の悩みは尽きません。今回は,そのような中で私たちが実践している若手育成方法を一つご紹介します。

コメントのやり取りが社内の人脈形成につながる

 サイボウズでは,若手社員に「日報」を書かせています。日報は,なんとなく流れていきがちな日々の活動を,立ち止まって振り返らせ,学びと気付きを与える機会を作ります。みなさんの会社でも,若手に日報を書かせているところは多いでしょう。上司と部下の間で専用の日報ノートを作って,交換日記のようにやり取りしているところもあるかと思いますが,私たちのやり方は少し変わっています。社内のイントラネットを使って,全員の日報を全社員にオープンにしてしまうのです。

 やり方は簡単です。社内のイントラネット掲示板に,若手社員一人ひとりが日報用のスレッドを立ち上げます。準備はこれだけです。そして,そのスレッドに毎日,日報を書いていきます。フォーマットは部ごとに違いますが,たいていの場合,「今日やったこと」と「明日やること」,そして自分の「所感」を残します。

 このオープンなやり方は,いくつかの点でメリットがあります。まず一つは,上司以外の人でもコメントを書けることです。日報に書かれる若手の悩みは多岐に及びます。あるときは「特殊な製品の仕様」について,またあるときは「仕事上のストレスとの向き合い方」について。直接の上司がすべての疑問にうまく答えられればよいですが,上司も完璧ではありません。

 そんなとき,上司以外の人がコメントすることで,本人の学びを促進できることがあります。「その仕様は僕が詳しく知っているから,今度教えてあげるよ」とか,「俺も去年は同じところで悩んでいたけど,こんな風に考えて乗り越えたよ」とか。思わぬフォローを上司以外からもらうことは,単に学びを得るだけでなく,若手にとって忘れられない思い出になるでしょう。

 さらに,このようなやり取りは,社内の新しい人脈作りにつながります。若手は,この機会に新しい先輩を得ることができます。先輩は,今後活躍するだろう後輩との新しいつながりを持つことができます。これらは,企業がチームとして長期的に仕事をしていく上で,大事な人脈となるでしょう。

上司のマネジメント能力向上にも効果

 また,部下をフォローする上司にもよい効果があります。上司は,毎日部下の日報を読んで,気になるときはコメントをつけます。そのやり取りはオープンになっていますから,上司が答えたコメントを,他の部門の人が読むことができます。当然,社長である私自身が読むこともあります。すると,上司も適当なことは書けません。自分なりによく考え,フォローしなければならないというプレッシャーが,上司の成長を引き出します。我々のように若い会社にとっては,マネージャーの能力を高めることも,若手の育成同様,重要な課題なのです。

 日報の上でやり取りされる上司と部下の会話を読んでいると,上司のマネジメント能力がうかがえます。普段から部下と深いコミュニケーションをしている人,なんとなく会話を盛り上げているだけの人。日報をオープンにすることは,優秀なマネージャーと優秀ではないマネージャーを明らかにすることにもつながります。

 それはマネージャーにとっては厳しいことかも知れません。しかし,それをきっかけに優秀ではないマネージャーが優秀になっていけばよいのです。「Nobody is perfect」。優秀でないのが悪いのではなく,優秀でないことが明らかにならないことが悪いことです。

 部下に夢を与え,試練を与え,気付きを引き出し,成長を促進する。人間社会が長い間繰り返している,この「育成」という仕事は,みんなの前にさらけ出すことで加速できると思っています。