今も昔も情報システム部(情シ部)の在り方やCIO(最高情報責任者)に関する議論がにぎやかである。例えば「情シ部はどうあるべきか」「情シ部は情報戦略部門たれ」「CIOはどうあるべきか」「情シ部長はCIOになるべきだ」「日本企業はCIOが不在だ,十分機能していない」などのマスコミの記事やその関係のセミナーなどが結構目に付く。

 産業経済省もCIO関係の委員会などでCIOのあり方などを研究し,その推進に取り組んでいる。だが,読者の方もご存知のように日本では情シ部の情報戦略部門化やCIO云々が叫ばれるようになって10~20年経つにもかかわらず,その実態は一向に進んでいない。そのことについて先日ある大手IT企業のベテランSEから次のような質問を受けた。

 「馬場さんは長年IT業界で活躍し,ユーザー企業でも仕事をされています。IT企業出身の大手ユーザーの情シ部長としていろんな経験をされたものと思います。馬場さんから見て,日本の情シ部の情報戦略部門化はなぜ進まないのでしょうか?また,CIOについてもCIOらしいCIOがなぜ少ないのでしょうか?」

 こんな質問を受けた。今回は,この問題について筆者の考えを述べてみたい。ただ,これから述べる意見は情シ部(システム子会社を含む)が約100人以上の超大手ユーザーは必ずしもこの限りではない。その点は誤解のなきようお願いしたい。

日本のユーザーには構造的問題がある

 筆者は,IBMのSE時代は超大企業から中企業までを担当し,ベンダーの立場で多くのユーザーを“外側から”見た。そして,情シ部の担当者やマネジメントをはじめとする経営者やユーザー部門の方など多くの方々と,情シ部の在り方について討議した。

 IBM卒業後は,情シ部が約50人の某ユーザー企業で仕事をした。そこで情シ部長として,情シ部員や経営者,ユーザー部門と仕事をし,多くのメーカーやソフト開発会社,コンサルタントなどとも付き合った。ユーザー企業の“内側から”情シ部の在り方やユーザー企業の在り方やベンダーとの関係などいろいろ勉強した。そこにはユーザー企業の中に入って初めて分かったことや,ベンダー時代のこうだと思っていたことがそうではなかったことなどいろいろあった。

 そのほかにも,勉強会などで多くの人と情シ部の在り方について討議や意見交換をしてきた。そんな経験から,筆者はマスコミや識者,IT企業の経営者,官僚らが「情シ部は情報戦略部門たれ」「情シ部長はCIOになるべきだ」などとセミナーや雑誌などで語っていることに少なからず抵抗がある。きっと彼らは「日本企業が成長するのにはもっと情報化を戦略的に考えるべきだ」と啓蒙のつもりで言っているのだろう。それはそれで重要だが,問題はその内容だ。

 彼ら彼女らは日本企業の経営陣のITに対する認識の希薄さや情シ部が抱えている構造的問題点を知った上で言っているのだろうか,と疑問に思う。あえて言えば,アメリカのITの世界の話を受け売りしているようにしか思えない。もっと日本企業の現実を知って,もっと建設的な意見を提言してほしいものだ。そうでないと日本の多くのユーザーはその“戦略”という美しい言葉に振り回されかねない。それでは日本の情報化がますます遅れ,日本企業の競争力強化もおぼつかない。それでも,その類のセミナーに人が集まるから不思議といえば不思議でもある。もちろん,中には建設的な意見を述べている人もいるが,そんな人はそう多くはない。少し言い過ぎかもしれないが筆者は常々このように思っている。