ITの世界でエンタープライズと言えば「企業向け」を指すことになっているが、どうも気持ちが悪い。「エンタープライズシステムはもう進歩しない。今、最先端はGoogleに代表されるクラウドです」と後輩に言われると、さらに気持ちが悪くなる。

 後輩の発言が気に入らない訳ではない。むしろ、居心地が悪いと書いたほうがよいかもしれない。この違和感は、エンタープライズの訳語に「企業」を当てることに起因している。

 エンタープライズを企業と訳すと、エンタープライズシステムは企業システムとなり、メインフレームで事務計算をしたり伝票を処理するといった、なんとも古くさい雰囲気が漂う。これに対し、Googleのように、企業ではなく、一般消費者を向いて作られたシステム(サービス)は自由度が高く、新しい感じを与える。ちなみにGoogleは社名ではなく、グーグル社が提供するサービス群の総称として使っている。

 しかし、繰り返しになるが、エンタープライズシステムは古くさく、エンタープライズ向けではないGoogleは新しい、という見方に対しては、どうしても同意できない。

IT企業もエンタープライズを「企業」の意味で利用

 エンタープライズは企業のことに決まっているではないか、と思う読者が多いだろう。確かに、IT企業もそういう意味で使っている。

 例えば、米ヒューレット・パッカード(HP)は2009年9月23日、2008年に買収したITサービス大手「EDS」の名称を、「HPエンタープライズ・サービス」に切り替えた。EDSは、企業の情報システムをそっくり引き取るアウトソーシング・サービスの草分けであった。そのEDSがHPの企業向けサービス部門になったので、名前をHPエンタープライズ・サービスにした訳だ。

 EDSという社名は欧米においては相当知られていたが、9月23日をもって消滅することになる。EDSの正式表記はエレクトロニック・データ・システムズで、そのものずばりではあるものの、今となってはなんとなく野暮ったい。もっとも、HPエンタープライズ・サービスという新しい名前も、エンタープライズを企業と訳すとそのものずばりではあるものの、やはり野暮ったい雰囲気がある。

 一方、グーグルもHPと同様に、エンタープライズを企業という意味に使っている。したがって、グーグルはこれまでの活動をエンタープライズ向けとは言わない。ただし、ここへ来てエンタープライスの市場にも進出していく、といった言い方をする。

 ちなみに、グーグルのエンタープライズ向け製品(サービス)は、Googleサーチアプライアンス(検索用のハード)、Google Earthをはじめとする地理情報サービス、オフィスアプリケーションを提供するGoogle Appsなどを指している。グーグルが持つサービス群の中のまだ一部でしかない。