社内に散在するサーバーを集約し,全社共通のシステム基盤を作る。ハードもソフトも一括購入してコストを下げ,運用費も安くする。そんな共通基盤を構築しようとするユーザー企業を取材した。「システム基盤の刷新」をテーマにした日経SYSTEMS10月号特集のためである。

 「今後の基盤はどうなりますか」。各社にこう尋ねると,共通基盤の構築を2段階でとらえていることが分かった。第1段階は社内での構築。いわゆる,プライベート・クラウドの実現である。第2段階は,パブリック・クラウドへの移行。可用性などの要件に応じて構築した個々のプライベート・クラウドを,徐々にパブリックへと移していく。多くの企業は,この第2段階をあくまで“将来的な構想”と考えている。

 その中で,一足早くパブリック・クラウドへの移行に乗り出したのがパイオニアである。同社は2009年8月に,日本情報通信(NI+C)のクラウド・サービスを利用すると表明した。同社の取り組みはちょっとユニークであり,多くの企業にとって参考になると思うので,ここで紹介したい。

「所有から利用」に変えるだけでコスト4割減

 パイオニアがパブリック・クラウドに移すのは,国内工場向けの生産管理や管理会計,修理のための部品管理といったアプリケーションである。現状ではIBMのSystem i(旧AS/400)で稼働しており,2009年内の移行完了を予定している。

 パイオニアの取り組みには大きく二つの特徴がある。一つ目は,パブリック・クラウドへ移行するにあたり,猶予期間を設けていること。二つ目は,移行の際に,初期投資を抑える工夫をしていることだ。

 一つ目の特徴は,日本情報通信から借り受けるサーバーを当面,他社と共有しないというものだ。パブリック・クラウドへの移行は3~4年後を想定しており,「それまでに環境を整備していく」とパイオニアの田中陽一 情報戦略部部長は話す。

 パブリック・クラウドに移行するまでの猶予期間では,新サーバーをパイオニアのデータセンター内に置き,自社マシンであるかのように運用する。従来との違いは,サーバーの所有者が日本情報通信に変わったことと,これまで業務ごとなどに5~6台に分かれていたマシンを1台に集約したことである。社内で動かしていたシステムをパブリック・クラウドへいきなり移すのは,セキュリティ面や運用面からも難しい点が多い点を考慮したからだ。

 それでも,サーバー資産をベンダーに移し,「所有から利用」へとモデルを移すメリットを享受できる。パイオニアが支払う月額料金は,従来支払っていたリース料と機器のサポート料の合計と比べて,6割程度になるという。

 その後,時間をかけてセキュリティ環境などを整備した後,サーバーを日本情報通信に移し,他社とリソースを共有する計画だ。田中氏は「パブリック・クラウドに移行することで,さらなる料金低下を期待している」と話す。

サーバ資産を一挙に手放す

 二つ目の特徴であるサーバーの集約に伴う初期投資を抑える工夫とは,自社のサーバー資産をすべて手放し,一気にシステム統合を進めるというものだ。

 実はパイオニアは今回の移行に伴い,自社のSystem iを日本情報通信に買い取ってもらっている。導入時期がバラバラの現行サーバーのリース料を完全になくし,クラウド・サービスの利用料だけで済むようにしたのだ。「System iは中古市場が安定していることも幸いした」(田中氏)。田中氏自身がこのアイデアを考え,日本情報通信に持ちかけた。

 初期投資の重さは,サーバー統合をする際の大きな課題である。仮想化技術などを使ったサーバー統合を進める事例が増えている一方で,二の足を踏むユーザーが少なくないのはそのためだ。

 既存のサーバーはそれぞれ導入時期が異なり,リース切れや保守切れのタイミングが変わってくる。サーバー統合でメリットを出したいなら,高性能のサーバーを最初にコストをかけて購入し,徐々に既存システムを移していくしかない。しかし,いくら3年といった単位で考えれば総コストは低くなると言われても,「思うように初期投資ができない環境になっている」(田中氏)。パイオニアはサーバー資産をすべて手放すという“荒技”で,この課題の解決を図った。

 ここで紹介した取り組みが,システム基盤設計のヒントになれば幸いである。