「CSKが売りに出ているらしい」。昨年末あたりから、そんな噂がITサービス業界に広まっていた。実際に私も、ある大手ITベンダーの人から「CSK買収を持ち掛けられたんだけど、断ったよ」という話を聞いたことがある。まあ、金融機関の「投資銀行」部隊が案件化しようと先走っていただけの可能性もあるが、直近のニュースを読むと、遂に買い手はつかなかったようだ。それにしても・・・。

 今回は、証券業などへと多角化し昨秋のリーマン・ショックで吹き飛ばされたCSKの再建策の中身について、とやかく書くつもりはない。「それにしても」と言ったのは、CSKをはじめとするITサービス業は、本当に企業価値が見えにくいビジネスだな、という感慨にとらわれたからだ。大手の一角を占めるライバル企業が、本業以外のことで躓いて売りに出た。交渉次第ではおいしいはずのM&A案件に買い手がつかないのも、価値が見えないことが原因じゃないのかなと思う。

 買い手が現れなかったことについて、新聞報道なんかでは優秀な人材が散逸して企業価値が低下したことが取り沙汰されている。また“証券会社化”したことによって、ITサービス業としての魅力が低下したとの指摘もある。しかし、きちんとデューディリジェンス(資産査定)をして現在の価値を弾き出せば、価値が低下したぶん安く買えるはずで、お買い得案件になる可能性もある。本業以外の事業は、交渉の中で処分方法を決めればいい。

 まあ、事業環境が悪すぎて、他社を買収している場合ではないのかもしれないが、大手のライバルを傘下に収めるなら今しかない。景気が良く仕事がいくらでもある時期は、誰も身売りなどしないのは経験済みだ。M&Aを志向する企業なら、この案件は千載一遇のチャンスだったはずだ。

 で、皆が買収を見送った本質的な理由。これはさっき書いたように、企業価値が実はよく分からないところにあるように思う。「人が財産」のITサービス業、というか、技術やノウハウが今でも属人的な日本のITサービス業においては、そもそも正確なデューディリなんかできない。外部から企業の本当の資産価値を弾き出すのは至難の業だ。まして誰が辞めるか分からない状況では、企業価値がいくら目減りするか予測がつかないから、買収なんて怖くてできるわけがない。

 かくしてITサービス業では、強固な商権を手に入れることができる大手ユーザー企業のシステム子会社の買収を除いては、いつまで経っても大型のM&A話が出てこない。やはりITサービス業界の再編は夢のまた夢なのだろうか。