「県のIT予算が組めない」。総選挙直前の8月27日・28日に開催した「都道府県CIOフォーラム」(詳しくはこちら)において、都道府県でIT化を主導する参加者の多くが、このような趣旨のことを言っていた。総選挙前とはいえ政権交代がほぼ確実であったため、民主党政権下ではどこにどれだけの予算が使えるのかが不透明だったわけである。

政策やマニフェストからはIT化の動向が見えにくいが…

 それでは、民主党は政府・自治体のIT化に対して、どのような立場をとっているのか。この拠り所となるのが、「民主党の政権政策Manifesto2009」(同党のマニフェスト)と「民主党政策集INDEX2009」である。ただし、これらからはIT化や電子化の方針が、直接的には見えてこない。例えば、「IT」という用語が出てくるのは、2つの文書を合わせてもわずか1カ所(「ICT」はゼロ)。マニフェストの「日本経済の成長戦略」という小さな囲み記事で、「IT、バイオ、ナノテクなど、先端技術の開発・普及を支援します」という文言があるだけである。電子政府・自治体に関する政策を探しても、「電子投票制度の導入」と「インターネット選挙の解禁」という2つの話題が目立つくらいである

 それでは、民主党は政府や自治体のIT化に消極的なのかというと、そういうわけではない。前佐賀市長で、「日経BP ガバメントテクノロジー」や「ITpro 電子行政」に寄稿を頂いている木下敏之氏は、「自治体のITシステムに影響する案が目白押し」だと指摘する。木下氏のコラム「民主党政権で自治体ITはどう変わるか?」では、電子投票以外に、(1)後期高齢者保険制度の廃止、(2)子供手当ての拡充、(3)農家に対する「個別所得保障制度」、(4)社会保険番号と納税者番号の統一的導入---などの例を挙げて、システム化が必要だと解説する。確かに、直接的にIT化とうたっていなくても、制度や業務・サービスを改革すれば、それに伴ってシステムの整備は必要になる。

 そうした目で改めてマニフェストを見直すと、なるほど、IT化に結びつくような案件が山ほどある。例えば、民主党が掲げる霞が関改革のなかでも大改革につながる「歳入庁の創設」でも、大規模なIT投資が必要になる。この改革の骨子は、「社会保険庁と国税庁を統合して、税と保険料を一体的に徴収する」「税と社会保障制度共通の番号制度を導入する」というものだ。2つの庁にまたがったシステムを統合するというハードとソフトの費用だけでなく、国民のマスターデータ(共通の番号制度)の標準化という大作業が発生する。

 このほかの細かな政策でも、ITに関する改革が必要なものが目白押しだ。例えば、「公立高校の実質無償化と私立高校の学費負担軽減」では、学費を負担する私立高校に通う生徒の情報と学校をひも付けたデータベースが必要になるし、新入生と卒業生だけでなく、退学者や転校生の管理も必要になる。これは、あらかじめ自治体が住民の基本情報を持っていた定額給付金の処理よりも、大変な手間がかかるだろう。「食の安全・安心の確保」では、「生産、加工、流通の過程を事後的に容易に検証する食品トレーサビリティシステムを確立する」としており、大手企業だけでなく中小の食品メーカー、流通業者まで巻き込んだIT化が必要になると予想される。これらの例のように、今の時代に制度や業務・サービスを改革するにはITに関する改革・整備も欠かせないのである。

IT化の道筋を想定することが必要

 マニフェストには、費用負担が大きな項目には「所要額」として金額が示されている。例えば、先述の「公立・私立高校の無償化と学費負担」では「9000億円程度」という所要額が記されている。ただし、この金額には、改革に伴うIT化の予算は含まれていないだろう。これに限らず、改革に伴うIT化については、それほど考慮されているとは思えない。IT化に際して、誰(国? 地方自治体? 利用者?)が費用を負担し、どの団体にシステムを設置し、誰の権限の下でシステムや情報を運用保守するのか。こういったことまでは考えられていないのが現実だろう。

 もちろん、マニフェストの段階から、システムの実装や運用までの道筋までを考える必要はない。ただ、IT化のコストや、システムや情報の運用保守に関する権限の調整を、今のうちに想定しておかないと、予想外に膨大な予算が必要になったり、実現までに長い時間を要したりすることになる。

 民主党の掲げる政策では、様々な局面で改革を実施することになる。すべてを一気に実現できるわけでないので、優先度やスケジュールを決めていくことになる。その際に、改革に伴うIT面のコストや調整を織り込んでおくことが必要だろう。これをおざなりにして改革が中途半端に終わったり、頓挫するのであれば、民主党が前政権批判で強調する「税金のムダづかい」にもなりかねない。