衆院選で民主党が勝利し,様々な局面で大きな政策転換が行われようとしている。環境政策もその一つだ。

 民主党は,「2020年までに温室効果ガスを1990年比で25%削減」を公約に掲げた。「2005年比15%削減」を掲げる自民党よりもさらに踏み込んだ数字である。産業界は,過大な削減目標を設定することは,日本の国際競争力を低下させ,従業員の雇用が失われるとして,民主党に対し,目標見直しの働きかけを活発化させている。

 そもそも自民党と民主党とでは,温室効果ガスの削減目標をどう設定するかという発想からして異なる。自民党の目標は,日本の環境技術の開発・実用化を重視し,太陽光発電やエコカーなどを普及させることで,将来的にこれくらい削減可能であろうという数字を積み上げたものだ。

 これに対し,民主党は,国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が示した「先進国は2020年までに25~40%削減すべき」という勧告をもとに,日本が担うべき目標を設定したという。「まず,やるべきこと」が最初にありきで,実施のための具体策は,優先順位の低い施策の見直しなどで融通していくという発想だ。

電力の使用者に新たな負担

 2020年までに温室効果ガス25%削減という目標を現実のものとするには,既定路線ではない思い切った施策が必要になるのはまちがいない。2009年6月に当時の麻生首相は,日本の温室効果ガス排出削減の中期目標と同時に,温暖化対策による家庭の負担増は年間約7万6000円という試算をはじき出した。これが,民主党政権ではどうなるのか。

 温暖化対策のために企業や家庭が支払う負担,広い意味での環境税は,様々な場面で具体化するだろう。例えば,電気料金の値上げはそう先の話ではない。

 民主党は,家庭や企業が自己投資して作り出した,太陽光や風力など自然エネルギーによる電力をすべて買い取る制度の導入を目指している。自民党政権が進めてきた制度では,自然エネルギーを太陽光発電に限り,しかも家庭で使用した電力を差し引いた余剰電力を買い取るものだが,これを一歩進めた。

 この11月にも実施される買い取り制度では,現在の家庭用電気料金の約2倍(1kWhあたり48円)で10年間,電力会社が買い取るというもの。割高な価格で買い取るための費用は,電力会社が家庭や企業を含めたほぼすべての電力利用者を対象に,使用量に応じて電気料金に上乗せすることでまかなう。現在の制度設計でいくと,一般家庭で月額最大100円程度の負担増になるという。

 これを民主党の目指す全量買い取り制度に移行したとすると,月額180円まで負担が増えるという試算もある。太陽光発電装置を置けない家庭や金銭的に余裕がない家庭などにも負担を求める施策には,不公平感が生じることも考えられる。

エネルギー転換とガソリン使用抑制を担う新税

 もう一つ,注目されるのがガソリンへの課税。民主党は,ガソリンにかかる揮発油税などの暫定税率を廃止するとしている。2008年に当時の福田康夫政権が道路特定財源制度を2008年度限りで廃止。2009年度からは使途を道路の整備に限らない「一般財源」に切り替えたものの,暫定税率は維持されていた。しかし,これも2010年4月には廃止される。

 暫定税率が廃止されると,ガソリン価格は2割ほど安くなり,家計の負担は減る。一方で,自動車の利用が増え,CO2の排出量が増えると懸念されている。非営利組織(NPO)の「環境自治体会議 環境政策研究所」は,暫定税率の廃止と高速道路の無料化によって,CO2排出量は年間980万トン増えるとの試算を発表した。

 そこで浮上しそうなのが,使途を地球温暖化対策に限った新税。すでに欧州では,石油や石炭などに炭素税を課し,自然エネルギーの普及など低炭素社会への転換を進める施策の財源にしている。日本でも2004年に,政府がガソリンに1リットル当たり一律1.5円を環境対策税として加算することを提唱したが,実現していない。あれから5年,暫定税率が廃止される方向にある今,環境対策に目的を限定にした税が検討される可能性は高い。

 環境政策を推進する上では,企業活動や家庭生活に様々な負担が生じる。特に負担が顕著なセクターからは,多くの不満の声が聞こえてくる。だが,「少子高齢化社会への対応」という長期ビジョンの下,批判も少なくない子育て支援策を断行しようとする民主党・新政権。同じように「低炭素社会の実現」という長期ビジョンを掲げ,大胆な環境施策の実現へ動き出す日は遠くなさそうだ。