前回までは,著作権法によるソフトウエアの保護の問題を中心に検討しました。今回は,さらに,不正競争防止法上の営業秘密によるソフトウエアの保護を検討してみようと思います。ハードウエアやソフトウエアの仕様書・設計書等のドキュメント,プログラムのソースコード,アルゴリズム等は不正競争防止法上の営業秘密に該当した場合,その使用の差止や損害賠償を請求することができます。しかし,不正競争防止法上の営業秘密に該当するためには,一定の要件を具備しなければなりません。

 したがって,まず営業秘密に該当するための要件を検討したうえ,事例の検討をしてみましょう。

1 営業秘密として保護されるためには,秘密管理性,有用性,非公知性の要件を具備する必要がある

 不正競争防止法では営業秘密について,以下のように規定しています。

不正競争防止法第2条6項
この法律において営業秘密とは,(1)秘密として管理されている(2)生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって,(3)公然と知られていないものをいう。

 したがって,営業秘密に該当するためには(1)秘密管理性(2)有用性(3)非公知性という3つの要件を具備する必要があります。では各要件について,検討してみます。

 秘密管理性の要件は,訴訟で営業秘密の該当性が問題となる場合,最も争点となりやすい要件です。この点について判断した名古屋地裁平成20年3月13日判決を見てみましょう。

名古屋地裁平成20年3月13日判決
「秘密として管理されている」とは,当該営業秘密について従業員及び外部者から認識可能な程度に客観的に秘密としての管理状態を維持していることをいい,具体的には(ア)当該情報にアクセスできる者が制限されていること(イ)当該情報にアクセスした者が当該情報が営業秘密であることを客観的に認識できるようにしていることなどが必要と解され,要求される情報管理の程度や態様は,秘密として管理される情報の性質,保有形態,企業の規模等によって決せられるものというべきである。

 この裁判例から,秘密管理性を肯定するためには,少なくとも以下の2つの条件を満たさなければならないことが理解できます。

(1)当該情報にアクセスできる者が制限されていること
(2)当該情報にアクセスした者が当該情報が営業秘密であることを客観的に認識できるようにしていること

 (1)の要件を具備する場合としては,ID・パスワードによる認証システムを採用し,一定の限られた人員しか情報にアクセスできないようにしている場合や,情報が物理的に隔離されている場合等が考えられます。また,(2)の要件を具備する場合としては,保管されている情報に,「秘密情報」「極秘」などの記載がされている場合,持ち出す時には必ず事前の許可が必要とされている場合,社内の研修等で秘密情報であることを伝え,管理方法等を教育していた場合等が考えられます。

 次に,有用性の要件ですが,ハードウエアやソフトウエアの仕様書・設計書等のドキュメント,プログラムのソースコード,アルゴリズム等が有用であることについては争いがなく通常は問題となりません。