前回までは,著作権に基づく差止めや損害賠償請求による保護を受ける前提として,著作権の発生や譲渡の問題を取り上げました。今回からは,著作権に基づく差止めや損害賠償請求等の法的な保護について,以前,特許権の保護を検討した時に利用した事例1を参考にしながら検討してみようと思います。

【事例1】
ソフトウエアの製造,販売を行っているX社は,ソフトウエアAを開発して,これを販売していたところ,Y社もソフトウエアAと市場において競合するソフトウエアBを製造して,販売を開始しました。ソフトウエアAとソフトウエアBを比較すると,画面の表示が類似しているほか,ソフトウエアAで実現されていた特徴的な機能αがソフトウエアBでも実現されていたため,ソフトウエアAの市場におけるシェアが低下しています。

1 画面とプログラムの両方が保護の対象となりうる

 以前,IT企業が製造・販売するハードウエア及びソフトウエアに実装された技術的な思想である発明について,特許権によって第三者の模倣から保護される場合があることについて解説しました。

 特許権での保護を図る場合,特許出願されていることが前提となります。しかし,現実には,出願に一定の費用がかかること等の理由により,特許権による保護を図ることができない場合もあります。

 一般的に,ハードウエアの場合,特許出願されていないと,その保護を法律的に試みることは困難です。しかし,ソフトウエアの場合,著作等による保護を受ける可能性があるため,この点についても検討する必要があります。

 著作権によって保護を図る場合でも,表示画面の類似性に着目する方法と,プログラムの類似性に着目する方法に大別されます。

 前者は,事例1におけるソフトウエアAとソフトウエアBの画面が類似している点に着目し,ソフトウエアを実行した場合の画面が,美術の著作物(著作権法10条1項4号)または図形の著作物(同項6号)であるから,これを模倣した場合には複製権又翻案権の侵害となるという構成です。

 後者は,表示画面や機能αが類似しているという点に着目し,これらが類似していることは,そこで用いられているプログラムの表現も類似している可能性があるという発想で,ソフトウエアAとソフトウエアBのソースコードの対比により,プログラムの複製権または翻案権の侵害となる構成です。

 X社としては,ソフトウエアAとソフトウエアB の表示画面に着目して,自己のソフトウエアが模倣されていると考えるのが通常だと思いますし,表示画面の類似性に着目する方が,立証が簡単です。

 したがって,まずは,表示画面が類似しているという点に着目して,その保護を検討してみようと思います。