48cm×4.5cmという物理的な大きさが、コンピュータメーカーの将来を左右していくかもしれない。最近、こう考えるようになった。

 勘の良い読者はお気付きだろうが、これはいわゆる19インチラックの1U分の幅と高さを示したものだ。この大きさのなかで、いかに顧客の心をつかむハードをつくるかがメーカーに問われている気がする。

ラックマウント型の時代がやって来る

 今でも、19インチラックの1Uサイズのサーバーは存在する。宅配ピザを入れる紙箱のような、ラックマウント型サーバーがそうである。企業の基幹系業務ではなく、Webサーバーなどの用途で使われることが多い。

 今後は、ラックマウント型サーバーが企業の情報システムの中核を担っていくのではないか、と筆者は考えている。1Uではなく2U程度の厚さになるかもしれないが、この方向に進んでいくのは間違いない気がしているのだ。

 従来のラックマウント型サーバーは、処理能力が不足していた。だが最近では、1Uサイズの半分のスペースしか使わない、従来の2倍の密度を実現したラックマウント型サーバーが出荷されるようになった。ラックの縦半分ほどの厚さのサーバーを、1Uのスペースに2台配置する製品も存在する。

 ここにCPUのマルチコア化が重なる。8個、あるいは6個のコアを搭載したCPUを1Uのスペースに2台搭載すれば、昔でいえば16個、あるいは12個のコアの処理能力を持つようになるわけだ。48cm×4.5cmのスペースの処理能力はかなり高いものになりつつある。

クラウドはラックの集積

 クラウド化の流れもラックマウント型サーバーに味方する。クラウドコンピューティングを支える巨大なデータセンターは、ラックマウント型サーバーを集積したものに近い。

 半分ほどの厚さで2台をラックの1Uに配置するという前述のサーバーは、大手のネットサービス会社が大量に使用することで出荷台数を伸ばしてきた。今年4月に、米グーグルは自社のデータセンターで用いている自社設計のサーバーを公開したが、基本的にはラックマウント型の範疇に入るものだった。

 安価なコモディティ製品だから導入が進んでいるだけだという見方もあるだろうが、大量に使用されるなかで、製品としての進化が促される面もある。とんでもない高価格でもなければ、ごく少数にしか利用されないサーバーに開発投資を振り向けるメーカーは少ない。ラックマウント型サーバーにはその心配がない。

 今後、企業が情報システムを自前で運用する場合には、クラウドの世界を支えるインフラ運用技術を、いかに自社システムにうまく取り込んでいくかが一つの鍵になる。そうすれば一気にハードを効率的に運用できるようになる。

 この過程で、クラウドの基盤として利用されているラックマウント型サーバーへの注目が高まる可能性は十分にある。このときには、ラックマウント型サーバー単体でなく、仮想化や運用管理などを実現するソフトウエアの存在が重要なものになる。

ブレードにはシャシーが不可欠

 ここまで読んできて、ラックマウント型サーバーよりもブレードサーバーのほうが、筆者の示そうとしている製品ではないかと考える読者もいるかもしれない。確かにブレードサーバーは、コンピュータメーカーの戦略商品として目覚ましい勢いで成長している。

 製品としての密度もラックマウント型サーバーより高い。製品が多様化していくにつれ、用途も広がった。

 WindowsやLinuxはもちろん、各種のUNIX、なかにはメインフレーム用のOSが動作するブレードサーバーもある。最近では、基幹系業務を処理できることを売り物にする製品も存在する。

 ただし、ブレードサーバーを使うには、ブレードを格納するシャシーが必ず必要になる。そしてメーカーが異なれば、シャシーとブレードの互換性はない。少なくとも現時点ではそうだ。この点を嫌う企業は少なくない。

 一度、ブレードサーバーを使い始めれば、どうしても特定のメーカーに囲い込まれることになる。独自のシャシーではなく、汎用の19インチラックを用いる製品なら、囲い込まれる確率は低くなる。

国産メーカーの新機軸に期待

 ラックマウント型サーバーが克服すべき課題はほかにもある。企業の情報システムを支えるためには、性能や可用性、信頼性を確保する必要がある、という声もあるだろう。

 この点で、まだまだ問題が残っていることは事実だ。1台のサーバーに多数のCPUを搭載したスケールアップ型のサーバーでなければ、大規模なシステムを稼働させるのが難しいケースもある。スケールアウト型のシステムで可用性を維持しようとするなら、さまざまな工夫をシャシーにこらすことのできるブレードサーバーのほうが適しているという見方もできる。

 これらの意見を否定するつもりはない。すべてのサーバーがラックマウント型になるわけでもないだろう。それでもラックマウント型サーバーに期待するのには理由がある。端的に言えば、国産コンピュータメーカーに向いた製品ではないかと思っているからである。

 サーバーの心臓であるCPUのなかで、x86あるいはx64といわれるアーキテクチャへの寡占が進んでいることは周知の通りだ。メインフレームとUNIXサーバーを開発する何社かのメーカーは、自社製のCPUを作り続けているが、出荷台数で考えるなら勝負は明らかだ。

 サーバーの市場で勝ち抜こうとすれば、CPU以外の部分で他社と差異化するしかないのである。機能面で差異化できなければ、価格競争を挑むしかない。そこには規模の論理しか残らない。

 残念ながら、現時点のサーバーの出荷台数を見ても、国産コンピュータメーカーの陰は薄い。1990年代の前半まで、メインフレームが海外を席巻した時代と比較すると差は激しい。

 筆者は、ラックマウント型サーバーにこそ、この現状を打破する可能性があると思うのだ。少し非常識かもしれないが、だからこそ独自性を打ち出しやすい。ここにブレードサーバーやメインフレームで培った独自のノウハウを取り込むことも可能なはずだ。

 少し飛躍する。筆者が読んだことのあるベストセラーに『「縮み」志向の日本人』がある。

 この本では、微細なスペースのなかに美を見出す日本人の特性について示してあった。48cm×4.5cmという限られたスペースを生かしたサーバーこそ、日本のコンピュータメーカーが作るべきものではないだろうか。