今回から、新ネタで記事を書かせていただきます。「ぼちぼち還暦なのだから、後の世代に何か言い残しておこう」という趣旨の記事です。「ジジイうるさいぞ!」と言われるのは嫌ですから、決して説教じみた話はいたしません。明るく、楽しく、若きITエンジニアのやる気を喚起するような話をしますので、よろしくお付き合いください。

まだまだ若いと思っていたのに

 私は、1961年生まれ、現在48歳です。自分では、まだまだ若いと思っていました。この先も、新しいチャレンジがずっと続くと思っていました。ところが、つい最近「もう若くない」と実感させられたことが立て続けにありました。

 私と同い年の編集者と、コンピュータの歴史に関する本の企画を話し合っていたときのことです。私が「歴史を調べるのは面倒だなぁ。最新技術のことが書きたいなぁ」と駄々をこねると、編集者は「ボクたちも、ぼちぼち還暦ですから、何か後の世代に言い残すようなものを作るべきですよ」と諭します。「ぼちぼち還暦だって!とんでもない、まだ48歳じゃないですか」と反論すると、「いやいや、干支を後ひと回りしたら60歳、つまり還暦です。もうすぐです」としみじみ言います。私は、はるか遠い未来のことと思っていた還暦が、とても近くにあると感じさせられました。

 さらに、追い討ちをかけるようなことがありました。眼鏡を新しく作るために眼鏡店に行き、レンズの度数を合わせていたときのことです。店員さんが度数を切り替えながら「これとこれは、どちらがよく見えますか?」と聞くので一方を指定すると、「そうですか。実は、お客様がよく見えると言った方は、現在かけている眼鏡より度数が低いです。年齢からして、そろそろ遠視が入ってきたのかもしれませんね。遠近両用のレンズにしますか?」と聞きます。「とんでもない!遠近両用なんて、ジジイがかけるものだ」と反論すると、「そうおっしゃらずに、試しに遠近両用で見てください」としつこく薦めます。シブシブ見てみると、おお!この方が、確かに遠くも近くもよく見える。私は、はるか遠い未来のことと思っていた遠近両用眼鏡が、とても近くにあると感じさせられました。

 ちょっと前置きが長くなりましたが、そんなわけで「還暦まで後ひと回り」というタイトルの記事を「わたしゃ、どうせジジイだよ」と開き直って書かせていただきます。記念すべき(と言うほどでもありませんが)第1回のテーマは、パッケージソフト(以下パッケージと略します)です。

パッケージには夢がある

 若きITエンジニアの諸君!この業界にいるなら、いつかはパッケージをやりなさい。特定のお客様向けの受託システムばかりやっていても、つまらないでしょう。そもそも、受託システムは、儲かるかどうかわかりません。同じお客様と長く付き合って「前回は損をしちゃったので、今回の改造で穴埋めしてください」なんてお願いをしているようでは、情けないでしょう。受託システムは、堅いビジネスかもしれませんが、お客様の顔色をうかがう受身の仕事なので、あまり夢がありません。

 それに対して、パッケージには夢があります。パッケージのビジネスは、受身ではありません。ニーズの創造です。アクティブな仕事です。値段だって、自分で勝手に決められます。私が2000年に販売を開始したパッケージ(株式会社ヤザワの製品)の価格を決めるときは、上は200万円、下は2000円までの案を考えました。価値を認めてくれた少数ユーザーに高く売るか、とにかく安価にして多くのユーザーをつかむかの選択です。後で値段を下げるのは簡単ですが、上げることは難しいものです。そこで、現場の担当者の決済で買える価格は20万円以下だろうと見込んで、19万8000円に決めました。

 開発費を除けば、パッケージの原価なんて、箱とCD-ROMとマニュアルで500円ぐらいのものです。1本売れば、19万8000円をほぼ丸儲けできます。日本中に売るのですから、少なくとも1年間で1000本ぐらいは売れるでしょう。さあ、計算してみてください。19万8000円×1000本は、いくらになるでしょう?1億9800万円です。1年間で約2億円の利益が得られるのです。すごいでしょう!自分が作ったプログラムを多くのユーザーに使ってもらえるというのも、なかなかいい気分です。

 さらに、バージョンアップという美味しいビジネスもあります。パッケージの世界には、俗に「バージョンアップの法則」と呼ばれるものがあるのです。バージョンアップすれば、50%のユーザーが応じてくれるという法則です。19万8000円×500本ですから、約1億円の利益になります。これまた、すごいでしょう。これだけ儲かれば、六本木ヒルズに住んで、フェラーリを乗り回せるかもしれません。バージョンアップだけでなく、製品の種類を徐々に増やして行けば、パッケージを生涯のビジネスとして続けられるでしょう。

作ることが好きな人は、売ることが好きな人と一緒にやりなさい

 ところが、現実は、そんなに甘くありませんでした。何とビックリ、最初の1年でたったの2本しか売れなかったのです。いくらになるか、計算しなくていいです。空しくなるだけです。なぜ売れなかったのでしょう?これに関しては、次回の記事で大いに反省会をやる予定ですが、最大の原因は、私にあると思います。

 「あなたの職業は何ですか?」と聞かれたら、私は「プログラマです」と答えるでしょう(出版社さん、セミナー会社さん、ごめんなさい)。今でもプログラミングが大好きだからです。そんな私がパッケージをやるとどうなるか。プログラムができた時点で満足してしまい、売ることを真剣に考えないのです。売らなきゃダメだとわかっているのに「プログラムは作ればお金が貰えるものだ」という感覚が、どうしても抜け切らないのです。売るためには、宣伝費や営業費などの費用がかかることも、ほとんど意識できないのです。

 それでも、若きITエンジニアの諸君!この業界にいるなら、いつかはパッケージをやりなさい。パッケージに夢があるのは、事実だからです。ただし、作ることが好きな人は、売ることが好きな人と一緒にやりなさい。開発費だけでなく、営業費を考えられる人と一緒にやりなさい。現在の私は、パッケージの販売を営業専門の会社に委託しています。しきり値(卸値)は、定価の50%=約10万円にしました。1件ずつ客先に足を運んで売るようなパッケージなので、1本で10万円ぐらい儲からないと、営業マンが動いてくれないからです。

 さすが、餅は餅屋です。販売を委託した会社の営業マンは、1年で20本ほど売ってくれました。製品のPRのために、あちこちの展示イベントに参加し、カタログを作り、雑誌広告も出してくれました。さらに、パッケージのコアとなっている機能を切り出して、他社の製品にバンドルして50ライセンスほど売ってくれました。売れているソフトに便乗するなんて、私にはとうてい思い付かないアイディアです。

 そして、プログラミングが大好きな私にも、嬉しいことがありました。パッケージを買ってくれたユーザーから、受託システムを発注してもらえたのです。本末転倒ですが、パッケージをやったことで、受託システムのお客様が増えたのです。まるで、パッケージが私に「あなたには、こっちの方がお似合いよ」と言っているようです。それでも私は「あなたへの夢は捨てませんよ」という気持ちでいます。