厳しい経済情勢が続く中,コスト削減のためにWANサービスを見直したいと考える企業ユーザーが増えつつある。単に,アクセス回線の帯域を落とすか,ベストエフォートに切り替えるという話でない。通信事業者が投入した新サービスをうまく取り入れて,コストを抑えながらも,帯域や機能を拡張したいと考える企業が登場してきたのだ。
日経コミュニケーションでは毎年,企業ネットワークの実態を調べるためのアンケート調査を実施している。今年の調査は7月に配布し,多数の企業のシステム担当者にご協力をいただいた。調査の詳細は10月1日号の特集記事でまとめる予定だが,中間集計の結果を見ると,厳しい経済情勢の中で企業ネットのコスト削減に対する要望が高まっていることが分かる。
例えば「過去1年にコスト削減の取り組みをしたか」という質問について,「取り組みをした」という回答は約52%。別の質問で「今後コスト削減に取り組みたいか」と聞いたところ,「取り組みたい」という回答は60%となった。また,「今後はどんなコスト削減策をするか」との問に対して,「WANの見直し」という回答が30%と最も多かった。昨年の調査では「帯域や機能は満足しており,WANの見直しは必要ない」という傾向があったが,その後の1年でコスト削減とWANの更改に対する企業ユーザーの考え方が変化し,より積極的なコスト削減策を求める企業が増えている。
プラス3万円で帯域10倍
こうしたWANの見直しによるコスト削減という要望に応えるサービスが相次いで登場している。まずはKDDIとNTTコミュニケーションズが7月1日に開始したバースト通信サービスである。KDDIの「Wide Area Virtual Switch(以下WVS)」はスイッチ・ベースの新しいバックボーン網。NTTコムの「バーストイーサアクセス(以下バーストイーサ)」は広域イーサネットやIP-VPNと組み合わせて利用するアクセス回線。いずれも契約帯域を超えて,アクセス回線の物理インタフェースの上限値まで高速化(バースト通信)できる。
WVS,バーストイーサともにクラウド・コンピューティング時代の利用形態に向けたサービスとされているが,料金に目を向けると既存サービスと比べて大幅に安くなっている。既存のWANサービスの利用料金と比較してみると,その違いは歴然。例えば,KDDIの広域イーサネットPowerd Ethernetで10Mビット/秒のイーサネット回線は月額約35万円。これを100Mビット/秒に切り替えると約96万円となり,コストは跳ね上がる。これに対して,WVSで契約帯域を10Mビット/秒,バースト帯域を最大100Mビット/秒にすれば,料金は約38万円に収まる。
企業はバースト通信対応サービスをどう見ているのか。企業アンケート調査の中で,WANの更改を検討しているユーザーに対し,クラウド通信サービスの利用意向を聞いたところ,約66%が無回答もしくは「よく分からない」としており,まだ認知度は低いようだ。一方,約25%は「ぜひ使ってみたい」「使ってみたい」と回答しており,「使いたいと思わない」は9%のみだった。サービス内容を把握している企業の多くは利用してみたいと考える傾向が見られる。
バースト通信以外にも,低コスト化を実現する新サービスはまだある。WVSは,小規模拠点やバックアップ回線向けにフレッツ網経由でL2接続ができる「プラグイン機能」という特徴を持っている。これに対抗する機能として,NTTコムは7月17日にフレッツ網が使える広域イーサネット「Group-Ether」を投入した。WVSのプラグイン機能,Group-Etherともに1拠点あたりの接続料金は月額約2万円である。さらにNTTコムは8月3日,ユーザー宅内にルーターを設置する必要がなく,ルーターの管理運用コストを削減できる「ルーターレス」プランを開始した。KDDIも,将来はWVSにルーターレス機能を追加する予定である。
競合他社も低コストで対抗
これらのサービスは似たように見えても,細かい機能が異なっており,導入前には内容をよく吟味する必要がある。例えば,バースト通信については,WVSの場合はデータ・センター向けの通信のみ,バーストイーサはユーザーが指定したアプリケーション以外の通信のみが対象となる。WVSはバースト部分の帯域も確保しているが,バーストイーサではバースト部分がベストエフォートになるという違いもある。詳しい機能差は日経コミュニケーション8月1日号の特集を参考にしてほしい。
KDDIとNコムの2社が競うように新たなサービスやメニューを投入する中,競合事業者のソフトバンクテレコムも「バースト通信の必要性を感じないほど広帯域で低価格な回線を提供する」と対抗姿勢を見せている。バースト通信など新サービスの登場によって,既存サービスも含めた低価格化につながる可能性もある。
事業者が競うように新サービスを投入することで,企業ネットの低コスト化を実現するための選択肢は大幅に増えた。まだ認知度が低く,新しいサービスなので様子見をしたいという企業も多いようだが,クラウドやデータ・センターを活用したいという企業には一定のコスト削減効果があるはず。景気低迷の逆風が吹く中,新たな利用形態への対応と低コスト化でどれだけのユーザー企業を引き付けることができるか。今後の各事業者の動向に注目したい。