アニメーション作品を中心とした動画配信事業を手がけるバンダイチャンネルは,人気コンテンツの「機動戦士ガンダム」全43話を毎日1話ずつ,アドビシステムズのFlashを使って配信するサービスを2009年7月20日から開始した。これはバンダイチャンネルにとって,配信技術をこれまでのWindows Media VideoからFlashに切り替えたというだけの話ではなく,世界配信を見据えたビジネス展開の第一歩となる大きな意味合いを持っている。

 バンダイチャンネルは,コンテンツを一元管理できる新しい映像配信システムを整備し,2009年10月をめどに日本で,さらに2010年初頭に米国,欧州,アジア地域で日本製アニメーションの配信サービスを一斉に立ち上げる計画である。その背景には,インターネットの普及とDVD販売の低迷で失ったコンテンツのウィンドウ展開に対するコントロールをもう一度取り戻し,グッズ販売で収益化する日本式のアニメのビジネス・モデルを世界展開する狙いがある。

 コンテンツのウィンドウ展開とは,一つの作品をパッケージ販売,有料放送,インターネット配信,無料放送など複数ある流通先(ウィンドウ)ごとに時間差をつけて提供することで,収益を最大化する手法のことである。アニメ作品の場合,日本国内ではテレビ放送でプロモーションした後に,DVDやBlu-rayなどのパッケージ・ソフトを販売するウィンドウ展開が一般的で,このパッケージ・ソフトの販売とキャラクター・グッズの販売で収益を上げるビジネス・モデルが確立している。一方海外では,一時期の日本製アニメのブームが去るとともにテレビの放送枠が激減し,作品のプロモーション自体が困難でウィンドウ展開ができない状況になっている。さらにDVDパッケージ全般の販売低迷が追い打ちをかけ「北米を中心にDVDの流通網が壊滅状態で,日本製アニメのパッケージ・ソフトを販売店に並べることすら難しい」(バンダイチャンネルの松本悟代表取締役社長)状況である。

 その半面,海外でのファン・イベントの盛り上がりは衰えていないなど,「海外で日本製アニメに対するニーズは確実にある」(松本社長)という。現状はこうしたニーズに正規のコンテンツ流通が対応できておらず,「ファン・サイトという建前の非正規の動画投稿サイトが増える原因にもなっている」(松本社長)と分析する。

 そこでバンダイチャンネルは,こうした地域における日本製アニメのプロモーションの場や,パッケージ・ソフトや関連グッズを販売する窓口として,動画配信サービスを積極的に活用し,グッズ販売を大きな収入源とする日本式のビジネス・モデルを海外でも展開する。新しく開始する動画配信事業は,eコマース・プラットフォームと連動しており,配信映像の画面の脇に視聴中の作品に関連のある商品を表示する。利用者は表示されたグッズのリンクをたどって,実際に商品を購入できる仕組みだ。

 また今回の動画配信には,配信コンテンツを一元管理することで,世界規模で番組の編成や作品のウィンドウ展開をバンダイナムコグループ主導で行う狙いもある。今後パッケージ販売の主流となるBlu-rayでは,再生地域を制限するためのリージョン管理の仕様がDVDよりも緩やかになっていることから,運用上はリージョン・フリー(地域制限なし)に近い状態になる。

 こうした理由から,グループ会社のバンダイビジュアルが発売するBlu-rayソフトは最初からリージョン・フリーとして製作しており,国内向けに発売したパッケージを海外のBlu-rayプレーヤーで再生できる状況にある。「パッケージ販売に占めるBlu-rayの割合はまだ10%未満だが,今後プレーヤーの普及に合わせてこの割合はますます増える」(松本社長)と見ている。Blu-rayがパッケージ販売の主流となるときまでに,日本製アニメのプロモーションの場となる動画配信サービスを整備し,パッケージ・ソフトを世界同時発売することで一つのアニメ作品から得られる収益を最大化する。

 今後展開する世界配信事業において,松本社長は「バンダイチャンネル自身はあくまでアニメと戦隊ものを中心に扱い,一般的なドラマや映画を手がける予定はない」と説明する。その一方で,他社のコンテンツも積極的に受け入れる姿勢を示している。この「他社コンテンツ」のラインアップ次第では,海外向けに日本製コンテンツを配信する共通のプラットフォームとして発展する可能性もありそうだ。