「部下を生かせない上司」は,IT部門にも例外なく存在します。部下の良き理解者というだけでは,組織や部下が望む方向に能力を伸ばすことはできません。これはIT技術者でなくても言えますが,部下にとって興味がわく仕事かどうかで,それに対する姿勢は極端に違いますし,そこから得られるスキルアップの幅にも大きな差が生まれるからです。

 部下を生かせない状況をそのままにしておくと,「組織として成果が上がらない」「本人がやる気を失う」など,個人と組織の相互成長は望めません。

テクノロジストを働かせるには

 IT技術者は,高度な知識・技術と肉体労働を合わせて仕事をする人達であり,経営学者のピーター・ドラッカーは「テクノロジスト」(注1)と呼んでいます。私もプログラマからシステム・エンジニア,ITコンサルタントとなり,汎用機からミニコン,ERP導入などITの仕事をしてきました。テクノロジストの1人として言うと,IT技術者の多くは「お金も大切だけど,仕事の面白さも重視」しています。

 ミドルマネジャは,このような性質をもつIT技術者でもあります。IT技術者の能力を伸ばそうとするなら,頭ごなしに叱ったり,欠点を指摘したりすると逆効果なのは明らかです。言葉の使い方からして相手を尊重する言い方にしないと,まずコミュニケーションの対象として認めてくれないことさえあるのではないでしょうか。

 仕事が面白いと思えるように,IT技術者の人格を尊重し,現在の技術力を認めた上で,組織やプロジェクトの目標とIT技術者自身の目標を再確認してもらう必要があります。また,組織と個人の目標を同時に達成するためには,役割と責任を自覚し,やり遂げる実行力が不可欠であることを理解してもらわなければなりません。

3つの分野で合理的な指導を

 まずは,合理的に指導することが要求されます。仕事を割り振る場合,部下の目標を定める場合などにおいて,「個人と組織の相互成長の結果,両者の成果が実現するのだ」との共通認識を持ち,部下本人に納得してもらう必要があります。そのためには,以下の3つの分野について,明確な指導方針と手法を上司は知っておかなければなりません。

 第一に,まず個人の成果を出すことに集中させることです。ミドルマネジャといえども,個人としてみれば何らかの定常業務を抱えています。この仕事が滞ってしまうと,そのほかのことに気が回らなくなったり,時間がとれなくなったりします。

 例えば部下が現場部門との間で要件定義を進めているとしましょう。仮にこの作業が滞り,現場部門とベンダーとの板ばさみに立ち往生している状況だとしたら,どうなるでしょうか。ミドルマネジャは部下の作業状況を把握できず,チームを統制できなくなることも起こり得るでしょう。

 ミドルマネジャにとって,基本的にプレイングマネジャ(個人の仕事も持ちながらチーム・リーダーとしての仕事を要求されている管理職)であることが共通の悩みです。このようなミドルマネジャに対し,まず個人としての能力を高めてもらい,組織が期待する水準の仕事ができるように支援すべきです。

 上司はこのようなミドルマネジャの時間の使い方に気を配るべきです。不要な会議への出席を求めたり,会議資料をやたらと作らせたりしないことが重要です。