海外のITベンダーを買収するなら、小規模な企業にせよ。これは、日本の大手ITベンダーが海外でM&Aをする時の鉄則だそうだ。そう言えば、NTTデータなど大手ITベンダーの最近のM&Aを振り返っても、そんなケースが多い。なんかチマチマした話だなぁ、と思っていたのだが、これは私の不勉強。深い理由があるそうだ。でもねぇ・・・。

 重要顧客が続々とグローバル展開を加速している中にあっては、ITベンダー自身もグローバル化しなければいけないのは火を見るより明らか。オーガニックに海外拠点を増やしていくやり方では間に合わない。当然、積極的なM&Aが必要になる。そんなわけで、特に大手ITベンダーはせっせとM&Aをやる。何度もM&Aを繰り返すのは、買収相手の経営規模が小さいからだ。

 大手なら大手らしく、もっと大きなITベンダーを買収すればよいのに、と私は思っていた。人材が命のITサービスにあっては、大規模な企業同士の経営統合は難しい。そんなリスクを怖れて、いわゆる戦略的M&Aに踏み出せないんだろうな、とも考えていた。ところが、これは大きな間違い。大手ITベンダーのある人にその辺りのことを解説してもらったのだが、なるほどと思える事情があった。

 実は、日本の大手ITベンダーが海外の大手あるいは中堅ベンダーを買収しても、ビジネス上のシナジー効果が得られないのだ。日本のITベンダーのグローバル戦略はコバンザメ型だ。つまり、大手顧客のグローバル展開について行くというもの。もちろん、顧客密着を旨とするITベンダーなら、これは正しい戦略だ。まずは顧客の海外拠点をIT面でサポートする。極めて自然の成り行きである。

 で、そのためのリソースを確保するためにM&Aとなるわけで、欧米辺りの大手や準大手を1社買収すれば、簡単に事足れりと思ってしまう(と言っても対象となる企業はわずかだが)。だが、これが無理。なんせ顧客が超ビッグであっても、海外拠点の規模は一部を除けばそんなに大きくない。当然、現地のIT案件は小規模なものになり、大手ITベンダーにとっては、割の合わないビジネスになる。

 これでは、仮に大手ITベンダーを買収しても、コバンザメ戦略を採る限りビジネス上のシナジー効果は期待できなくなる。一方、小規模なITベンダーだと、そうした小規模案件のサポートにピッタリだ。買収されたITベンダー側から見ても、これは素晴らしい話だ。小規模案件と言っても彼らには大きな仕事。しかも顧客は世界に名だたるグローバル企業だ。それこそ喜んで、日本のITベンダーの傘下に入る。

 というわけで「海外のITベンダーを買収するなら、小規模な企業にせよ」ということになる。うーん、納得・・・ただし、「今までは正しい」との限定をつける。コバンザメ戦略を採る限り、海外事業の大きな成長は期待できない。やはり海外企業も顧客にしていかなければならない。それに、日本の大手顧客が外国企業になってしまったら、どうするのか。そこまでいかなくても、IT部門の本拠地が海外に移ったら・・・。

 こうしたことは仮定の話ではない。既に現実化している話である。やはり、これからは海外で乾坤一擲の戦略的M&Aに打って出ることが不可欠になるだろう。あっ、逆に海外の大手ITベンダーに買収されてもOKなんですけど。