仕事には、失敗が付き物です。失敗したら、謝りましょう。ところが、世の中には、謝るのが苦手な人が多いようです。そこで、今回は、「謝る」をテーマに、あれこれ言葉を集めてみたいと思います。筆者の体験談を披露しますので、皆さんの体験談もお聞かせください。
お客様からクレームの電話が来た
これは、ある発注システムを納品して数カ月経ったときのことです。お客様からクレームの電話がかかってきました。「1件の発注処理が終わるのに3分ぐらいかかる。これでは、使い物にならない!」お客様は、カンカンに怒っています。運用を始めた当初は問題なかったのですが、徐々にデータが増えるに従ってシステムの処理速度が低下したようです。こちらのテスト不足が原因です。とにかく、謝らねばなりません。
ところが、電話を受けた筆者は、なかなか謝りの言葉が言えません。お客様があまりにも怒っているので、「申し訳ありません」くらいの言葉では済まされない雰囲気だったからです。最大級の謝り言葉は何だろうと考えれば考えるほど、一向に言葉が思い浮かびません。悩みに悩んでようやく筆者の口から出た言葉は「すぐそちらに伺います」です。この言葉のお陰で、とりあえず電話を切ることができました。
客先に向かう電車の中で筆者が考えていたのは、システムの処理速度が低下した原因ではなく、どんな言葉で謝るかでした。「こちらでテストしたときのデータ数が少なすぎました」では、納得してもらえないかもしれません。何か、お客様が納得してくれる言葉はないものでしょうか。またしても、考えれば考えるほど、一向に言葉が思い浮かびません。どうしましょう...。
そして、お客様と対面
結局、何も言葉が思い浮かばないまま、お客様と対面しました。不思議なことに、電話であれほど怒っていたお客様は、意外なほどおだやかでした。「遠方から駆けつけてくれてありがとう」と、お礼まで言ってくださったのです。お客様と一緒にシステムを操作してみると、確かに1件の発注処理に3分ほどかかります。筆者は「すぐに原因を調べて対処いたします」とだけ言って、会社に戻りました。謝りの言葉も、言い訳の言葉も、何も思い浮かばなかったからです。
今になってみると、筆者の言葉は、偶然にも適切だったのだと思います。まず、電話でお客様と長いやり取りをせず、「すぐそちらに伺います」と言ったことです。人は、顔が見えないと、キツイ言葉を言ってしまうものです。ところが、顔と顔と合わせれば、それほどキツイ言葉は言えません。電話を受けてから客先に到着するまでの時間も、大いに意味がありました。この間に、お客様が冷静さを取り戻してくれたようです。そして、何も言い訳せずに「すぐに原因を調べて対処いたします」とだけ言ったことも、たぶん好印象だったのでしょう。人は、言い訳されると腹が立つものだからです。
うっかり言った言葉でお客様が激怒
上手くいった経験ばかりではありません。筆者の謝りの言葉で、お客様を怒らせてしまったこともあります。これは、先ほどとは別のシステムのお話です。ある日、お客様がメールで「手作業で計算した結果と違う」と言って、システムの不具合を指摘してきました。ご丁寧にも、手作業とシステムの計算結果を比べた資料まで添付されています。
資料を見て、すぐに原因がわかりました。筆者は、別の仕事で頭がいっぱいだったので、うっかり安易な対応をしてしまいました。メールが届いて何分も経たないうちに「申し訳ありません。これは、配列の要素が1個ずれているのが原因だと思われますので、すぐに修正いたします。修正モジュールは、メールに添付して送るのでよろしいですか」と返信したのです。
この返信メールにお客様は激怒しました。「そんなにすぐにわかる不具合を、どうしてテスト段階で発見できなかったのか」「同様の不具合が、他の部分にもあるのではないか」「修正版のインストールCD-ROMを提出せよ」「不具合の原因と対策を文書で報告せよ」どれも、ごもっともです。おそらくお客様を怒らせたのは「修正モジュールは、メールに添付して送るのでよろしいですか」という言葉でしょう。この言葉から、こちらの安易さがお客様に伝わってしまったのです。うかつでした。謝るときは、落ち着いて対応しなければいけない、と大いに反省させられました。
謝らないプログラマに頭を下げる
筆者は、どちらかと言うと、腰が低い方だと思います。ミスを指摘されたときは、すぐに謝ります。こちらのミスではなく相手の勘違いだったときでも、勘違いさせた自分が悪かったと謝ります。そんな筆者と、かつて一緒に仕事をしていたITエンジニアの中に、まったく謝らないA君がいました。
あるシステムのバグが発見され、その原因がA君の担当したモジュールにあることがわかりました。ところが、A君は「自分のコードにバグはない!」と言い張ります。筆者は、頭を下げて「そうかもしれないけど、念のためだと思って、コードをチェックしてください」とお願いしました。数日後、A君は、ムッとした態度で修正したコードを持ってきました。やはり、A君のコードにバグがあったのです。
腰が低い筆者は、世の中にはA君みたいな人もいるんだなぁ、と、ある意味で感動しました。それは、ITエンジニアは「自分のコードにバグがあるのではないか」とオドオドしているより、「自分のコードにバグはない!」と堂々としている方がいいのではないかと考えさせられたからです。腰が低い筆者は、もしもミスをしたら謝るという姿勢で仕事をしています。一方、A君は、絶対にミスをしないという姿勢で仕事をしているのでしょう。どちらかと言うと、A君の方がITエンジニアとして好ましいような気がします。皆さんは、どう思われますか?
さて、今回も、私の本棚から本を1冊紹介しましょう。「ぴったりはまるの本」です。この本は、CGアーティストの檜山巽さんからいただきました。身近にある品物の外形をなぞった絵を見て、それが何かを当てるという内容です。謝るときは、落ち着くことが大事です。この本を眺めていると、不思議と心が落ち着きます。
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書名:ピタゴラブック(1)ぴったりはまるの本 著者:佐藤雅彦+ユーフラテス 発行:ポプラ社 ISBN:978-4591094709 |
この連載では、皆さんからのコメントをお待ちしています。成功した謝り言葉、失敗した謝り言葉、謝ることに関するエピソードなど、何でもOKですので、ぜひ書き込みをお願いします。