今回も前回に引き続き,著作権の譲渡に関する問題をとりあげようと思います。しかし今回取り上げるのは,通常の譲渡ではなく,二重譲渡の事案です。著作権の二重譲渡の事案といえば,最近では,某音楽プロデュ-サの事件が世間を賑わせましたが,二重譲渡の問題は,芸能の分野に限られた話ではありません。今回は,以下のような事例3を想定し,二重譲渡の場合における法律関係について検討してみようと思います。

【事例3】
X社は,A社からプログラムCの著作権を譲り受け,ソフトウエアCとして販売していたところ,その後,A社は,Y社に対してもプログラムCの著作権を譲渡し,Y社は,ソフトウェアDという商品名で販売しています。X社はY社に対し,権利行使することはできるのでしょうか?

1. 著作権は登録されないと第三者に対抗できない

 事例3はいわゆる二重譲渡の事案です。不動産の場合,このような二重譲渡の事案に関する規定としては民法177条があり,譲受人は,登記をしなければ,対抗要件の欠缺を主張し得る法律上の利害関係を有する第三者に対抗できません(自己に権利があることを第三者に主張できない)。著作権の場合には,以下のとおり「登記」という制度はありませんが,「登録」という制度が用意されており,この登録をすることが第三者対抗要件になっています。

著作権法77条
次に掲げる事項は、登録しなければ、第三者に対抗することができない。
1 著作権の移転(相続その他の一般承継によるものを除く。次号において同じ)又は処分の制限

 したがって,事例3のような場合,X社がY社よりも先にA社からプログラムCに関する著作権を譲り受けていたとしても,後から譲り受けたY社が,著作権法第77条1号所定の登録をしてしまうと,X社はY社に対し,自らの著作権を対抗することができず,逆に,Y社が確定的に当該ソフトウエアのプログラムに関する著作権を取得することになります。

 この場合,X社は,Y社の著作権を侵害していることになってしまいますから,X社としては大変深刻な問題です。

 著作権の二重譲渡が問題となった事案としては,東京地方裁判所平成16年1月28日判決がありますので,この事案を確認してみしょう。

 この事案では,A社からX社が,データファイルの著作権(データファイルに著作権等が成立するという仮定で判示しています)を承継取得した後,Y社がA社から同一の著作物に関し,使用許諾を受けていたという事案ですが,以下のように判断されています。

東京地裁平成16年1月28日判決
 X社とY社とはA社を起点として,いわゆる二重譲渡と同様の関係にあるということができるから,X社がY社に対し,A社からその他のデータファイルの著作権又は著作隣接権を承継取得したことを対抗するためには,著作権法77条1号所定の権利の移転登録を要するというべきである。しかし,X社は移転登録を得ていないのであるから,仮にその他のデータファイルについて著作権又は著作隣接権が成立するものが含まれていたとしても,Y社が原告商品2を販売する行為は,当該著作権又は著作隣接権の侵害とはならない。
 この点について,X社は,Y社がいわゆる背信的悪意者に当たるから,X社は権利の移転登録なくしてその他のデータファイルの著作権等の取得をY社に対抗することができると主張する。しかし,本件全証拠によってもY社が背信的悪意者に当たるとすべき事情は認められない。
※ 固有名詞は筆者が修正しています。

 この裁判例では,Y社はA社から譲渡を受けたのではなく,使用許諾を受けているだけですから,典型的な二重譲渡の事案ではありませんが,二重譲渡の事案と同様に処理されています。すなわち,X社は,A社からY社が使用許諾を受けるよりも先に譲渡を受けたにもかかわらず,Y社に対し,自らの権利を主張できないと判断されているわけです。

 現状では,あまり著作権の登録制度はなじみがなく,コストや手間の問題もあってあまり利用されていない制度ではありますが,法務担当者としては,登録を怠ると権利を失ってしまう恐れがあるということについても十分理解しておく必要があります。