前回までは,特許権によるソフトウエアの保護を中心に解説してきました。しかし,特許権による保護を図る場合,特許出願されていることが前提ですし,侵害訴訟や無効審判で,当該特許権は無効であると判断された場合,何ら保護を求めることはできません。そこで,今回からは,著作権によってIT企業の知的な資産をどのように保護したらよいのかという点について,言及しようと思います。

 著作権法上は,プログラムやデータベースが著作物として保護されうることが明記されており(著作権法第10条1項9号及び同法第12条の2),主に,プログラムやデータベースの保護に焦点をあてて検討することとしますが,マイクロプロセッサのようなハードウエアの保護と著作権法が全く無関係なのかというと,そうではありません。

 近年では,マイクロプロセッサ等のハードウエアの論理設計においても,HDL(Hardware Description Language)のようなプログラミング言語が使用され,HDLを使用した表現等も,著作権法による保護を受けうるものではないかと考えられるからです。

 このような状況を踏まえ,著作権法による,IT企業における知的財産の保護を検討してみようと思います。

1. 著作権とはどのような権利か

 著作権法に基づくIT企業における知的財産の保護を検討する前に,著作権について簡単に説明しておきます。

 著作権を簡単に定義すると,「著作物を独占的に利用することができる権利」ということができます。したがって,「著作物」と「利用」の二つの用語の意味を把握すれば,著作権の内容を把握したことになるのではないかと思います。

 ここで,「著作物」については,著作権法上「思想又は感情を創作的に表現したものであつて,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と規定されています(著作権法第2条1項1号)。もう一つの「利用」についても,著作権法上,複製,翻案,公衆送信等が規定されています(著作権法第21条乃至第28条)。

 したがって,プログラムを例にとって考えると,プログラムが(1)創作的に表現されたものであつて,(2)文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属し(プログラムは学術の範囲に属するといわれています),(3)第三者が著作権法第21条乃至第28条に定める方法によって利用している場合,著作権の侵害となり,著作権者は法的な保護を受けられるということになるわけです。