情報化研究会の会員やお客様に毎週送信しているメルマガで,キングジムの「ポメラ」(ポケット・メモ・ライター)について否定的なコメントを書いたところ,熱烈なポメラファンだというお客様から面白い反論メールを頂いた。ポメラは時代の流れが変わっていることの象徴だとのこと。インターネットは見るだけの人9割と,ブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で情報発信する人1割で支配されている。とりわけ近年は情報発信する人が増えてきた。その結果,メインPCではないサブマシンで,キーボードに対するニーズが盛り上がってきた。見るだけの人にキーボードは不要で,サブマシンはiPhoneでよい。だが,情報発信する人にはポメラがちょうどいいと思う,という意見だ。

 四六時中ブログを書く人はどこにいても情報発信したいことをポメラに打ち込んでおきたい,ということだろうか。週一度,土曜日に情報化研究会HPに記事を書き,月に一度このコラムを書くだけの私には理解できない。

 さて,今回は「7月革命」とも言うべき,革新的なネットワークサービスとそれがもたらす企業ネットワークへのインパクトについて述べたい。

「使い方」に着眼した新ネットワークサービス

 この7月,新しいネットワークサービスが三つ同時に始まった。固定系ではKDDIの「Wide Area Virtual Switch」(以下,WVS)とNTTコミュニケーションズの「バーストイーサアクセス」,ワイヤレス系ではUQコミュニケーションズの「UQ WiMAX」だ。

 特にWVSは革新的だ。1994年フレームリレー,97年ATM(Asynchronous Transfer Mode),99年広域イーサネット(今はなきクロスウェーブ・コミュニケーションズが開発),2000年IP-VPN(現ソフトバンクテレコムの日本テレコムが開発)と,これまでのネットワークサービスは新技術が新サービスを生むという形で発展して来た。

 しかし,WVSは違う。ユーザーの新しいニーズ,使い方に着眼して生まれたのだ。今までのネットワークサービスとは発想が180度違う。細部を見れば新しい技術も組み込まれているだろうが,本質は「データセンター中心」の利用形態に適したサービスを開発したということだ。KDDIは広域仮想スイッチなどと難しい名前を付けており,将来はレイヤー2/レイヤー3統合サービスもする,と言っているが,分かりやすく言えば「拠点のデータセンター向け回線を極端に安くした広域イーサネットサービス」だ。

 クラウドが流行語になるはるか以前から,ネットワークの高速・低価格化によってサーバーはセンター集中化が進んだ。その結果,企業ネットワークのトラフィックの大部分がセンターと拠点間のトラフィックになった。WVSはトラフィック・フリーという機能でこのトラフィックをより安価に伝送出来るようにしたのだ。図1のように各拠点のアクセス回線では料金を払っている契約帯域が10Mビット/秒であっても,データセンターとのトラフィックは上り/下りともに物理回線の帯域幅である100Mビット/秒まで流すことが出来る。超過部分は無料なので「トラフィック・フリー」だ。データセンター以外の拠点との通信は契約帯域までしか流せない。

図1●KDDIの新法人ネットワークサービス「Wide Area Virtual Switch」
図1●KDDIの新法人ネットワークサービス「Wide Area Virtual Switch」

 ただし,この機能が使えるのはKDDIのデータセンターか,KDDIと提携したデータセンターに限られる。また,データセンターとWVS網間のアクセス回線は契約帯域幅までしか使えない。つまり,拠点-データセンター間のトラフィックの合計はデータセンターとWVS間のアクセス回線の契約帯域幅まで,ということになる。

 NTTコミュニケーションズはWVSに対抗して「バーストイーサアクセス」というアクセスメニューを追加した。新しいサービスを開発したのではなく,既存の広域イーサネット(eVLAN)やIP-VPN(Arcstar IP-VPN)のアクセス回線のメニューとしてバーストイーサアクセスを追加したのだ。バーストイーサでは物理回線帯域の10%が保証帯域で,それを超えるトラフィックが物理回線帯域までバースト(超過)出来る。トラフィックは拠点-データセンター間に限らず,どの拠点に対するトラフィックも対象になる。保証帯域は下りのトラフィックに対してであって,上りのトラフィックには帯域保証がない。また,バーストが回線の物理速度まで出来るかどうかは網の混み具合に左右される。

 他に固定系サービスで注目すべきものとして,NTT東西のNGNサービスである「フレッツ・VPNワイド」と「ビジネスイーサ ワイド」がある。数百拠点以上といった多拠点ネットワークを設計する場合,インターネットを使わず安価でセキュアな閉域網を構成できるフレッツ・VPNワイドは有力な選択肢になる。ビジネスイーサ ワイドは全国規模のネットワークを構築できる階層型の広域イーサネットだ。全国型ではあるのだが,大きなメリットが得られるのは同一MA(単位料金区域,東京03エリアのように電話の課金単位となる区域)内で使う場合だ。近距離の高速回線が安価だからだ。