直球か、クセ球か。グーグルが7月7日に発表したネットブック用OSなるもの、いったいどっちなんだろう。Windows7の出荷前に仕掛けた陽動作戦とも考えられるし、マイクロソフトの牙城に切り込む正面攻撃とも取れる。この「Chrome OS」を搭載したネットブックの登場は2010年後半。Windows7とその次のWindowsの間隙を突く時期だけに、ちょっと面白い。

 それにしても、現時点では情報が少なすぎる。Webアプリケーションの利用に特化、電源を入れて数秒で立ち上がる軽量OSなどの開発コンセプトを公式ブログで発表した程度で、詳細な仕様はまだ明らかにしていない。ただ、ヒューレット・パッカード、東芝、エイサー、レノボなどがChrome OS搭載ネットブックの開発に協力するとしているので、それなりのリソースを投入した開発プロジェクトであることは確かだろう。

 さて「直球か、クセ球か」だが、まずクセ球の可能性について。グーグルは別にマイクロソフトにガチンコ勝負を挑もうとしているわけではないと考えてみる。Chrome OSはパソコン・メーカーに無償提供されるそうだだから、ネットブックの価格低下につながる。そのためChrome OS搭載ネットブックはそれなりの台数が売れるだろう。グーグルとしては、まずはそれだけで十分なのかもしれない。

 なぜなら、それによりマイクロソフトを牽制できるから。これは以前も書いたが、グーグルにとって最も嫌なのは、マイクロソフトがWindowsやIEに独自の機能を追加することで、グーグルのコンテンツやクラウドサービスの利用に差し障りが生じることだ。だから、マイクロソフトが余計なことをしないように、常に何らかの手段で牽制しておく必要がある。

 Chrome OSはその手段となる。Chrome OS搭載ネットブックが一定のシェアと取れば、AndroidケータイやブラウザのChromeとも合わせ、マイクロソフトはその存在を無視できなくなる。「Windows環境でグーグルのサービスの利用に支障がでるようなことになれば、本気でグーグル独自のOSを普及させるぞ」、あるいは「WindowsユーザーがグーグルOSに流れるぞ」と無言の恫喝をかけることが可能になり、マイクロソフトを“標準の世界”に縛り付けておけるわけだ。

 では直球、つまりマイクロソフトのパソコンOSの牙城を本気で切り崩そうとしている可能性はどうだろうか。むしろ、こちらの可能性のほうが高いかもしれない。グーグルがいくらクラウド・コンピューティングを推進したとしても、パソコンなどの端末が無ければ何も始まらない。パソコンなどの端末はグーグルにとっての事業基盤そのものである。その事業基盤を自分の意のままにしたいとグーグルが思ったところで不思議ではない。

 思い返せば、マイクロソフトがサーバーOS市場に参入したときに似ていなくもない。マイクロソフトはメインフレームのOSやUNIXに比べれば、極めて“貧弱なOS”を部門サーバー用に出してきた。メインフレームの技術者はあざ笑い、マイクロソフトの本気度を疑う声もあったが、マイクロソフトはそれを拠点に、ついには金融機関の勘定系システムも担うようなOSに仕立て上げた。

 そのアナロジーで言えば、グーグルはChrome OSという“貧弱なOS”をまずはネットブックように出し、それを拠点に・・・なんていうシナリオが描ける。そう言えば、この前「7の次のWindows」なんて話を書いた。仮に、Windows7以降のWindowsがクラウドサービスと密結合していく方向性で間違いないのなら、Chrome OSはコンセプト面ではWindowsの一歩先を行っていることになる。とにかくガチンコ勝負なら、IT業界を揺るがすバトルになるのは間違いない。