日立製作所もクラウド・コンピューティング事業を発表した。既に富士通やNECも同様のサービスに参入済みだから、これで日本主要コンピュータ・メーカーがクラウドで足並みをそろえた。新事業にケチを付けるのもなんだが、米国メーカーと比べると国産メーカーには弱点がある。それは技術やマーケティングのことではない。“お金”にまつわる問題である。

 企業向けクラウド・コンピューティングのサービス事業は、かなり乱暴に大別する「グーグル型」と「アマゾン型」の2つだ。さらに乱暴に言うと、グーグル型はメールを核にしたメッセージング環境を提供するSaaSだし、アマゾン型は仮想化技術を使ったインフラ・リソース貸し業だ。で、日米問わず、コンピュータ・メーカーが自ら提供するクラウド・サービスは皆、アマゾン型である。

 結局のところアマゾン型は、ビジネスモデル的には以前コンピュータ・メーカーが喧伝したユーティリティ・コンピューティングの焼き直しにすぎない。アプリケーション・ホスティングの新種と言ってもよいだろう。ただ、仮想化技術がこなれてきたことと、IT投資に懲りたユーザー企業の関心が急速に高まっているという時代性をまとったことで、大きなビジネス機会となりつつあるわけだ。

 さて、冒頭で書いたお金の問題とは、課金の問題である。アマゾン型のクラウド・サービスでは、当初は月額料金制で始めたとしても、いずれはリソースを使った分だけ課金する従量課金制を導入せざるを得ない。まさにそれが、電気、ガス、水道と同じようにコンピュータのリソースを利用できるようにするというユーティリティ・コンピューティングの理想であり、ユーザー企業が現在のクラウド・サービスに求めるものだからだ。

 で、国産メーカーだが、いったいどうやって従量課金での料金水準を決めるのだろうか。従量課金だと、CPU利用率やストレージ利用量などに応じて料金が決まるが、問題は単価をどう設定するかである。大手中堅向けのサービスなら個別に相対で決めるのだろうが、ユーザー企業のCPU利用率などを正確に見積もり、他社と比べて競争力があり、しかも自らも儲かる料金水準を決めるのはかなり難しい。

 こんなことを書くと、国産メーカーの人から「既に既存のアウトソーシング事業で、従量課金を試みているから心配無用」と言われそうだが、米国メーカーに比べて経験値が違いすぎる。IBMやHPなんかは、ユーザー企業に納入したハードウエアについても従量課金制を導入している。実はこれ、リースのノウハウであり、国産メーカーはここが弱い。

 このリースのノウハウについては多くを書かないが、簡単に言うと、まずリース期間終了後に転売することを前提に、リース料金の総額を引き下げる。そして、月々のリース代を固定ではなく変額にすると、従量課金ということになる。しかも従量課金だけでなく、支払い開始を半年猶予するなど、ユーザー企業の要望に応じて柔軟にリース料金の設定を行っている。

 こうした料金設定のノウハウは、そのままクラウド・サービスの料金設定に応用できる。つまり、ユーザー企業ごとに月額料金を交渉し、ユーザー企業にお得感を与え、メーカー自身はがっちり儲ける“お金のノウハウ”を、米国メーカーは既に持っているわけだ。

 では、国産メーカーはと言うと、こうしたノウハウを全く蓄積できていない。米国メーカーの場合、リース事業はメーカー自身か、戦略部門に位置付けるリース子会社が実施している。一方、国産メーカーの場合、リース子会社はあるにはあるが、メーカーと十分に連携して動いておらず、従量課金や支払い猶予といったサービス・メニューも持っていない。

 米国メーカーにとってリース事業は販促のためのツールだが、国産メーカーにとっては販売代金回収の手段にすぎなかった。その位置付けの差が、クラウド・コンピューティングという予想もしなかった分野で、競争力の差になって現れるかもしれない。