先般,あるIT企業のSEマネジャから次のような質問を受けた。

 「私には部下が10数人いるのですが,どうしても全員に目が行き届きません。プロジェクトのリーダーなどをやっているSEについては,仕事の状況や日ごろ困っていることがよく分かるのですが,その他のSEについては,なかなかそれが把握できません。特にプロジェクトのメンバーのSEについては,プロジェクト・リーダーに任せ放しの状態です。それで悩んでいます。どうすれば全員の部下に目が届くようになるでしょうか」。

 同じような悩みを持っているSEマネジャは少なくないと思う。筆者もSEマネジャをやり始めたばかりの1~2年は,大勢いた部下全員になかなか目が届かず,質問者と同様に悩んだ。当時は「自分は一生懸命やっているが,仕事に忙殺され,どうしても何人か目が届かないSEが出てくる。これはどう考えてもまずい。SEマネジャとしては,彼ら彼女らを育てる責務があるし,しっかり指導もしたい。きっと彼ら彼女らも相談したいこともあるだろうし,困っていることや,不満や希望なども持っているはずだ。何か良いやり方はないか」とよく思ったものだ。そこで今回は,当時筆者がこの問題について何をどう考え,何をやったかそれについて説明したい。

仕事がうまくいきさえすればよいのか

 筆者はSEの20代のころは中小顧客を担当していたせいか,どちらかというと上司から放ったらかされたSEの部類だった。当時「上司は俺がやっている仕事をほとんど知らない。俺の担当顧客もほとんど訪問しない。俺のことは眼中にもないのだろうか。冗談ではない」などと不満を持っていた。そんな経験をしたせいか,筆者はSEマネジャになってからは「部下にそんな思いはさせたくない」と自分なりに努力をしていた。

 しかし,悲しいかな全員平等にはなかなか目が行き届かなかった。特にリーダークラスのSEに任せている何人かのSEについては影が薄く見えた。オーバーワークではないか,休暇は取っているか,研修はどうかなどは,あやふやにしか分からなかった。当時「これでは俺の若いときの苦い経験を彼ら彼女らに味わわせることになる。そうならないためには,何か良い工夫はないか」と反省もし,悩みもした。そして,周りのSEマネジャやリーダークラスのSEに「どうすればよいのだろうか?」と酒の場などでよく相談した。

 SEマネジャの中には「馬場,気持ちは分かるが部下が大勢いるとそれは仕方がないよ。ビジネスがうまくいけばよいではないか」と言う人もいた。きっと現在でもIT企業の中にはそう考えているSEマネジャはいると思う。だが,筆者はそれには納得できなかった。そして,だんだんと次のように考えるようになった。

 「俺は現在,先輩のSEマネジャから引き継いだマネジメントのやり方を当たり前のように行なっている。周りのSEマネジャもそうだ。要件定義・設計・プログラム開発・テスト・本番開始・運用が開発計画通り順調に進んでいるか,問題はないか,提案書の作成や提出・プレゼンなどはうまく進んでいるか。そんな仕事指向・ビジネス指向の見方をして日ごろ仕事をしている。そして,それらの仕事を通じて,部下のSEを見ている」。

 「どうもこのやり方の根底には『システム開発や導入や販売活動など仕事がうまくいけばよい。SE個々人はその次だ』という考え方があるようだ。確かにこのやり方は,システム開発や導入や販売活動などをきちっとやるためにはよい。そして仕事の中心となっているリーダー・クラスのSEの仕事はしっかり管理・指導できる。だが,その他のメンバーSEがやっている仕事への気配りはおろそかになりやすい。さらに,SE個々人の事情や教育・研修,家庭の状況,不満・希望などを把握し,管理・指導することが後回しになりやすく,人事・労務管理の面で問題がありそうだ」。

 このように考え「これで部下全員をしっかり見ることができるのだろうか」という疑問を持った。そこでいろいろと考えた結果「現在やっている仕事指向・ビジネス指向のマネジメントでは,部下一人ひとりを管理・指導することは難しい。一人ひとりの部下を見るには,彼ら彼女らの活動そのものや個人的な事柄を把握し,指導・管理する別の仕組みが必要である」と結論付けた。そして,筆者はそのために個人別の月間活動計画表を導入した。これは,それまで自分がやっていたマネジメントのやり方からの“Change”への挑戦であった。