「計画の3倍にあたる6兆円のプロスペクト(見込み)を作れ」。NECの営業ビジネスユニット(BU)を担当する岩波利光取締役執行役員常務は、3300人の営業担当者にこう発破をかけている。2008年度に3000億円近い当期損失に陥ったNECを再生するには、顧客数を増やし、業績回復を図るしかないと考えている。岩波氏は責任ある重い荷物を背負って走り始めた。

 NECの2008年度は散々たる結果に終わった。売上高が前年度比8.7%減の4兆2156億円になった結果、営業損失62億円、当期純損失2966億円の赤字に転落した。2009年度は固定費などの徹底的な削減を図り、黒字化を図る計画だが、予想数字は売上高3兆7300億円、営業利益1000億円、当期純利益100億円である。

 売り上げは4兆円を割り込んでしまうが、それでもこの目標達成に向けてNECの営業担当者はフル展開しなくてはならない。矢野薫社長は2008年5月の2008年度決算説明会で、「2009年度は保守的な売り上げにしたが、営業BUには計画を10%上回る受注を取るように指示した」と語り、2008年度並みの売り上げ確保を要請したという。

業種縦割りの営業部隊を一丸体制に

 そのカギを握るのが、この4月1日に新設した営業BU(ビジネス・ユニット)だ。業種別部門などに配置していた営業担当者すべてを結集して、文字通り“一丸”となって、「NEC単体で2兆円強」という売上目標達成に向かう布陣である。

 それを統括する岩波氏は「顧客にどれだけ足を運べるか」を重視する。訪問する顧客を増やし、訪問する時間を増やし、そして質の高い効果的な提案を競合他社より早く行うことで、売上目標の3倍にあたる6兆円規模の見込み客を創り出すのだという。

 活動を支える仕組みの整備も進めている。まず、前線の営業を後方支援する専門チームを作った。顧客企業に関する下調べや、提案書の作成、さらには受注獲得に向けた審査や受注後の伝票処理などを、全面的に支援することで、前線の営業が顧客訪問に費やせる時間を増やす。

 顧客企業を取り巻く外部環境や市場に関するデータを収集し、誰でもすぐにみられるようにした。提案書作成などに役立つ情報を格納したデータベースも用意し、契約書作成といった各種手続きの標準化も進めている。

 顧客訪問のタイミングを最適化するために、顧客のIT活用の実態を「見える化」する取り組みもある。パソコンの一括導入や基幹系システム構築の時期、営業担当者のアプローチ内容や顧客の反応、競合状況といった情報を入れる提案活動データベースの整備である。

 実は、こうした情報はすべて社内にあった。だが業種別の縦割り組織内で別々のデータベースを抱えており、同じ顧客の情報が見たくても他部門からは見えなかったという。営業組織を一本化したことで、「1つの号令で共通のデータベースが作れるようになった」と岩波氏。特に年商1000億円を超える約800社について、こうした情報を整理し、データベース化しているところだ。2009年5月末でほぼ8割の作業が終わったという。

 目標の6兆円を3300人に均等割りしているわけではなく、担当分野や顧客によって絶対額は変わってくる。だが共通して求めているのは、各自が計画の3倍の見込み客を見つけだすこと。3割3分の打率で、2兆円の確保を目指そうというわけだ。

■変更履歴
公開当初,NECの2009年3月期の決算について「営業損益163億円」としていましたが,正しくは「営業損失62億円」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2009/06/25 10:20]