前回は,どの会社でも通用する仕事術を構成する7つの力のうち,(2)のマネジメントをテーマに8の重要項目を説明した。7つの力は以下の通りである。

(1)教える
(2)マネジメント
(3)仕事を頼む
(4)交渉する
(5)文章を書く
(6)褒める
(7)叱る

 マネジメント力はどの職場でも必要であり,上司やリーダー,マネジャーを務める上で非常に役立つ。ぜひ,実際に試していただきたい。マネジメントに関しては,筆者のWebサイトの読み物チェックリストを併せてご覧いただきたい。

 今回は,3つめの「仕事を頼む」を取り上げる。これも,どの会社でも使える重要な仕事術である。特に仕事が高度になればなるほど,他人の力が必要になる。

 部下に対してであれば,自分の命令で動く人への依頼なので,それほど難しくはない。難しいのは,自分の命令権の及ばない人への依頼である。他部門の人,取引先,友人など,命令権の及ばない人にどれだけうまく仕事を依頼できるかが,仕事の成否に大きく関係すると筆者は考えている。

 ここでは依頼を,「部下以外の仕事の関係者に対して,必要な作業を頼むこと」という意味で使う。法務部門に契約書をチェックしてもらう,経理部門に支払いをお願いする,などが該当する。以下,この前提で説明を進めていく。

事例:仕事の依頼が下手な人

 まず,仕事の依頼が下手な人の例を挙げよう。

 先日,筆者の部下である係長の加藤(仮名)が相談にきた。加藤の下にいる山崎(仮名)の仕事振りについて,アドバイスを受けたいということだった。

 筆者はシステム企画部門の課長で,システム計画,上流設計,プロジェクトマネジメントなどを担当している。だが日常的な仕事の多くは,加藤に権限を委譲している。山崎は,この春転勤してきた30歳になる中堅社員で,これまではシステム開発を担当してきた。

 山崎も筆者の部下である。ただ,山崎と筆者は年がずいぶん離れていることもあって,今までは直接山崎の仕事ぶりを見る機会はなかった。

 加藤は筆者に対し,「山崎の仕事振りを一度見てほしい」と依頼してきた。筆者は,加藤と山崎との打ち合わせに参加することにした。

加藤:では,君が担当する作業の一覧を出してくれないか。あと,関係部署への依頼が必要な作業と,自分たちでできる作業を区別して,依頼が必要な作業は事前に先方に打診しておいてほしい,と言っておいたよね。それはやったかい?
山崎:…まだ,やっていません。依頼内容が確定していないので,まだ,依頼までは…
加藤:それはダメだろう。遅くなると,先方の作業時間がなくなってしまうじゃないか。
山崎:それは,そうですけど…会社でみんな一緒に仕事している以上,会社が必要と判断した仕事は,どんなに依頼が遅れてもやるべきではないですか。
加藤:それは正論かもしれないけど,他の部門も忙しいのだし,正論だけではなかなかうまくいかない。必ず先に依頼しておかないとダメだ。依頼内容を詳細に書くことも必要だよ…

 2人のやり取りを聞いて,筆者は加藤の悩みを理解した。山崎は「仕事の依頼が下手」なのだ。山崎がこれまで担当してきたのは,部門間の調整をあまりしなくてもよい仕事がほとんどだった。「仕事を依頼する」能力が低いのも無理はないと,筆者は感じた。

 筆者は20年にわたり,プロジェクトマネジメントやシステム企画の際の意見調整を担当してきた。その中で,もっとも難しかったのは筆者が命令権を持たない人たちに対して,仕事を頼むということだった。試行錯誤の上,この能力を身につけてからは,「これ以上便利で役立つ能力はない」と思うようになった。

 そこで筆者は山崎に対し,「仕事を依頼する」にはどうすればよいかを,自分の経験を踏まえて話すことに決めた。以下はその内容である。