今回は,日常の法律相談でよく質問を受けるIT事業と知的財産権との関係について言及してみようと思います。

 知的財産権に関する各種の法律(特許法,商標法,意匠法,著作権法,不正競争防止法,半導体集積回路の回路配置に関する法律)は,IT企業のみを対象として立法されたものではありませんので,今回,解説する内容は,必ずしも,IT企業の方のみに関連する内容というわけではありません。

 しかし,「プログラム」という用語が,特許法,著作権法,不正競争防止法上使用されるようになり,「データベース」という用語も著作権法に登場します。また,半導体集積回路の回路配置に関する法律のように,明かにIT事業を意識した法律も存在します。

 これらの法律では,「プログラム」「データベース」「半導体集積回路の回路配置」について一定の要件のもとで保護することを明言しており,IT事業で活用される知的な資産に対して,特殊な配慮がなされていることは明らかといってよいでしょう。

 そこで,今回から15回にわたり,IT事業で問題となった具体的な裁判例をできる限り多数取り上げたうえ,IT事業と知的財産権法との関わりについて,私なりに分析してみようと思います。

1 IT事業に関連する知的財産権法

 今回は初回ですので,まずは,IT事業における技術的な内容と関連性の認められる知的財産権法を概観してみます。IT事業と知的財産権法の関係をまとめると,概ね以下のように表すことができます。

表1 IT事業と知的財産権法の関係
法律の名称IT事業との関連性
特許法物の発明にはマイクロプロセッサやメモリー等のハードウェアに関する発明のみならず,ソフトウェア(プログラム)に関する発明も物の発明に含まれることが明記され(特許法第2条3項1号),一定の技術思想が保護の対象とされています
意匠法パソコンや携帯電話の筐体の形状のみならず,プログラムを実行した際に表示される画面も一定の条件のもと,保護されることが明記されています(意匠法第2条2項)
著作権法プログラムやデータベースが,一定の条件を満たす場合,著作物として保護されることが明記されています(著作権法第10条1項9号,同法第12条の2)。
不正競争防止法ハードウェア,ソフトウェアのいずれに関連するものであるのかを問わず,営業秘密(不正競争防止法第2条6項)に該当する場合,一定の保護を受けることができます(同法第3条,第4条等)
半導体集積回路の回路配置に関する法律同法では「半導体集積回路における回路素子及びこれらを接続する導線の配置」(回路配置)に関し,一定の保護を受けることが明記されています(同法第10条,第11条等)