前回は若手・中堅SEの転職について「今の仕事は新しい技術の仕事ができない,自分のプラスにならない,面白くないなど○○が嫌だからという理由で転職したり,20代後半になってもこれという技術力を持っていないのに転職したりするのには疑問がある。それでは転職を繰り返すことになりかねない」と述べた。今,仮に30歳近いSEが転職を考えているとすると,その人はまだSE人生の約1/6を歩んだだけである。転職してもこれからのSE人生は5/6もある。これからのSE人生の方が長い。もっと若いSEはさらに長い。SEの方々は,転職を考える際はこれからのSE人生の設計も考えて慎重に決めてほしいと思う。

 若手・中堅SEが転職を考えるときは,誰しも悩み,家族や友人などに相談する。また,これはと思う転職先の候補企業についてその仕事内容や会社の規模,給与,勤務場所などを調べ,自分にとってどの企業がよいかいろいろと考える。だが,IT業界や企業の中途採用などの実態をまだよく知らない若手・中堅SEも少なくないと思う。そこで今回は「IT企業はどんなときに中途採用をするのか」「どんなSEを求めているか」「転職先をどんな視点で考えればよいか」について筆者の考えを述べたい。

IT企業はどんなときに中途採用をするのか

 考えられる転職先の企業はたくさんある。事実,電車の広告や転職雑誌にもたくさんの企業が載っている。ハードウエア/ソフトウエア・メーカー,販売代理店,大手ユーザーのシステム子会社,独立系ソフト会社,コンサルタント企業,通信系企業,IT教育会社などいろいろある。ユーザーの情報システム部もある。

 これらの企業の中から転職先はどこの企業がよいか考えることになるが,すべての企業が中途採用を行なっているわけではない。では,IT企業はどんなときに中途採用をするか。それは(1)主に企業の経営戦略から「今年度はこの分野を伸ばしたい。新規分野に進出したい。そのためにSEを何人中途採用して増やしたい」と言ったケース,(2)あるプロジェクトを受注したが「SEが足りない。そのために○○ができるSEを中途採用したい」といったケースの二つである。

 そのときにIT企業は自社のWebサイト上でSEを募集したり,人材紹介会社に依頼して人材募集を行う。(1)のケースでは,中堅SEだけでなく,それほどスキルのない入社2~3年の若手SEも対象になる。しかし,(2)のケースでは即戦力の中堅SEが主な対象である。このように企業が中途採用するか否かはビジネスに左右される。今のように不景気なときや先行きが不透明なときは中途採用は減少する。

どんなSEを求めているか

 中途採用である以上,言うまでもないが一般に即戦力となり得るSEを企業は求める。SE歴2~3年の若手SEについては,ある程度の技術力と潜在能力のある人間を採用する。これが大前提である。

 しかし,企業がSEに求めているのは技術力だけではない。多くの企業は技術力に加え,考え方がしっかりしている人間を求めている。すなわち,システム開発や販売活動などの職務ができ,顧客に信頼されるしっかりした人間である。すなわち,技術力はもちろんだが,リーダーシップや顧客と壁を作らないコミュニケーション力,交渉力,顧客の気持ちが分かる感性など人間的側面も備えたSEである。

 筆者が知っている企業の中には,(PRをするわけではないが)応募者に拙書「SEを極める」を読んでから応募してくれという企業が何社かある。その企業の経営者は「応募者には技術にしか興味のないSEが多い。それでは困る。我が社はこんなSEを求めているということを応募者に知ってもらうためにそうしている」と話されていた。そこまではしていなくても多くの企業は「技術力+人間的側面の力=技術力を超えたしっかりしたSE」を求めている。そんなSEは,中途採用している企業ならどこでも採用されるはずだ。従って,若手・中堅SEは今の会社でそんな技術を超えたSEになる努力をするべきであろう。